‘12年9月、インターネットの交流サイト「フェイスブック」で大阪市の谷口真由美さん(38)が呼びかけてスタートした『全日本おばちゃん党』。党とは名がついているが、政党ではない。ふだんはフェイスブックを会報のようにして、3千人もの女性が既存の政治に鋭いツッコミを入れている。
‘75年3月6日、大阪府大阪市で生まれた谷口さん。父(65)は近鉄のラグビー部の選手を経てコーチを務めていた。母(65)は谷口さんが6歳のとき、近鉄ラグビー部の寮母に。家族も寮に住み込んだ。だから、自宅が東大阪市の「近鉄花園ラグビー場」というのは本当のこと。母は、選手30人分の食事を毎日作った。
「私がこんだけ肝が据わってんのも、“河内(東大阪市)の子”やからと思うんです。ああいうヤンキーもぎょうさんおる環境で育って、なおかつラグビー場やん。たとえヤクザが踏み込んできて『若いもんに怖い目に遭わされるで』と脅されても、引かんかった。『ウチも若いもん、呼んできましょか、ラグビー場から』言うて(笑)」(谷口さん・以下同)
そもそも党の代表代行であり、大阪国際大学准教授の谷口さんが“新党”結成を思い立ったのは、昨秋の自民党総裁選と民主党代表選のころ。
「何げなしにテレビ見てたら、出てくるんがオッサンばっかりやってん。スーツの色もグレーとか黒とかばっかりで、若い候補者でもなにか、私から言わせればオッサン」
もちろん「オッサン」とは見てくれの問題よりも、古い体質の政治家を指す言葉。そこで谷口さん、早速自身のフェイスブックに書き込んだ。
《どないなってんねん。既存政党を見渡してもこんなオッサンしかおれへんねんやったら、もう『おばちゃん党』でも立ち上げたろか(笑)》
これに賛同する声が徐々に集まり、気づけば3千人。特に昨年末に大阪維新の会の「維新八策」に対抗して発表された「はっさく」のその1は多くの母親の心をつかんだ。
《その1・うちの子もよその子も戦争には出さん!》
今年の3月には、安倍首相も「骨太の方針」に対抗して、「腹太の方針」を発表。《借金は次世代につけ回さず、現世で分け分け》《ステルスよりも豚まん買うて!》――谷口さんは言う。
「私は大阪のおばちゃんなんで、あくまで“笑い”や“シャレ”に昇華させたいし、それで興味を持つ人も増えるはず。全国のおばちゃんたちが笑いながら考えることが世論を動かす。世論が高まれば、政治は動くんです」
すでに、その動きはある。安倍内閣が唐突に発表した、「女性手帳」プランについても、すぐに声明を出した。《産むとか産まへんとか、そんなこと政府に決めてもらうことなんでしょうかね》――5月7日のこの声明が、各マスコミに取り上げられた3週間後、「女性手帳」は見送られることに。
橋下徹大阪市長(43)の「慰安婦発言」問題では、《橋下さん、翻訳こんにゃく食べてってプロジェクト》として、英語、中国語など13言語に翻訳して公開。海外メディアも取り上げ、「橋下市長を追い詰めた面々」として、谷口とおばちゃん党が雑誌で取り上げられた。
3月には、東京でも『全日本おばちゃん党東京場所』が開催された。おばちゃん党は今、関西を飛び出し、じわじわと日本中にその影響を及ぼしつつある。しかし、千人単位の人が集まっての活動である限り、批判も当然ある。
「党の中でも『なんでもシャレにするってどういうことですか?』とキーッてなる人がいる。けど、デモをすることで”特定の運動団体”と見られるのも残念でしょう。より多くの人を巻き込んでいくには、思想の押しつけではなく『考えようよ、おかしいんちゃう?』ということを、日常の風景の中で広めていきたいんです。誰かの都合で誰かが見捨てられる――そんなことにならないよう、みんなで面倒みていかな、と」
谷口さん自身は、おばちゃん党の今後をこう思い描いている。
「3年後には、大阪で『全世界おばちゃんサミット』を開きたいと。『ヒラリー・クリントンさんを呼ぼか』いうて話してますよ。あと『MOTTAINAI』みたいに『OBACHAN』も英語の辞書に載せたい!」