’13年12月13日に公布された特定秘密保護法。この法律では、秘密を扱う人物が情報を漏らす恐れがないかのチェックを義務づける、としており、その名を「適正評価」という。内容について、ジャーナリストの大谷昭宏氏が解説する。
「その内容は、きわめて差別的といえます。その人に秘密を取り扱う資格があるかどうか、家族も含めて国籍、犯罪歴、借金があるかどうか、飲酒の量まで調べられます。公務員だけではありません。納入業者やエンジニアなど、関連する民間の業者、そしてその家族もこれからは対象になります」
適正評価の事項は、ほかにも薬物の濫用歴や精神疾患など、本人のプライバシーにかかわるものばかり。対象となる数は、公務員だけでも6万4千人に上るとされている。さらにその家族、取引業者、取引業者の家族……となると、膨大な数の個人情報が、国によって握られることになってしまう。
「公務員だけでなく、納入業者や通信会社などの人も、そういった国の方とは結婚できないということが出てくるでしょう。結婚の自由が奪われる、ということです。処罰の対象が、業務により秘密を知りえた者も含まれるというのは、基本的人権の侵害につながるとも考えられます」(ひめしゃら法律事務所・藤原真由美弁護士)
また、就職活動の現場でも、その人の家庭環境次第で、内定が取り消されたり、エントリーシートを出しても受理されなかったり、といった差別が起こるのではないかとの声もある。そしてもうひとつ、大きな問題とされているのは「適正評価」の内容や結果について、国がいくらでも解釈を変えられるというところだ。
’13年11月、自民党の石破幹事長は、国会周辺で行われているデモについて、自身のブログで感想を述べた。その内容は「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」というもの。デモに参加する人間は、テロリストと同じだ、と断じたのだ(その後、批判により訂正)。
特定秘密保護法「適正評価」事項の筆頭に「テロ活動等との関係」というものがある。ということは、デモに参加した人はすべて、テロ行為に加担した危険人物になってしまうということだ。今後、このように何でもテロリストと結びつけるような世の中がやってくるのでは、と、大谷氏は危惧する。
「たとえば、福島原発の問題。地元の人がどんなに申請しても、この法律があれば『テロ対策だから』と、放射能汚染の正しい情報を出してもらえなくなるかもしれません。じゃあ、自分たちで調べよう、といっても『あなた方はテロリストとつながっているかもしれない』と、今度は適正評価の対象になります」
その結果、親類が原発反対のデモに参加したことのある「テロリスト」だったら……。特定秘密に当てはまるものにはいっさい、触れることができなくなるかもしれない。
「取材を仕事にするマスコミ関係者だけの話ではありません。自衛隊の基地を監視している人、オスプレイの飛行状況を監視している人はたくさんいます。そういった人たちの目で、平和が保たれているという側面があるのは間違いありません。しかし、これからはそのすべてが軍事機密、国家の秘密になってきますから、それこそ集団的自衛権の行使も止められなくなることも考えられます」(藤原弁護士)
基地の近くに住んでいて、平和のためにと毎日、仲間と基地の監視を続けていた。ところがある日、「秘密を漏らした」として逮捕され、さらには家族も「親族にテロリストがいる」として、職を失ったり、縁談が流れたりした……。特定秘密保護法は、とんでもない危険をはらんだ法律なのだ。
「戦時下に逆行する」とまでいわれている悪法の施行まで、もう時間がない。反対し続けることが、子どもたちの幸せな未来にもつながるのだ。