「事件が起きた翌週、野次を飛ばした議員の1人が名乗り出ましたが、問題は野次そのものや犯人捜しではありません。『どうして、こういう野次を飛ばしてもいいと思わせたか』。要するに、野次を容認する雰囲気のほうに根本的な問題があると感じました」

 

そう話すのは、経済ジャーナリストで昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員の治部れんげさん。問題が起きたのは6月18日。東京都議会で質疑中の塩村文夏議員に対して「産めないのか」といった野次が飛んだ。治部さん自身も、2人の子どもの母親だ。「産めないのか」発言に「すでに産んでいる」女性まで怒ったのは、なぜだろうか?

 

「『産めないのか』という言葉が出たのは、出産・育児はすべて女性の責任だと思っていることの表れでしょう。日本女性が子どもを持ちにくい理由のひとつに、男性の家事育児時間が短すぎることがあります。どんな国でも平均値を見ると女性のほうが男性より家事や育児をたくさんやっていますが、男女差はおおむね1対2。一方、日本は1対5とか1対6と男女差が大きすぎる」(治部さん・以下同)

 

男性と女性の間にあるこの格差を、専門用語で「ジェンダー・ギャップ」と呼ぶ。「世界経済フォーラム」の調べによると、日本はジェンダー・ギャップ指数(国内の男女格差をさまざまな指標から算出)で136カ国中、105位ときわめて低い順位だ。先進国で最下位であるばかりでなく、ここ数年間、順位を下げている。

 

「女性に『結婚しろ』とか『産め』と迫るいっぽう、出産した女性を二級労働者のように扱う風潮が、まだ残っています。このような風潮は『日本の中の古い部分』だと思います。私を含め、子持ち女性がセクハラ野次に怒ったのは、古いもの、すなわち女性差別を容認する風土に自分自身が嫌な思いをさせられてきたからだと思います」

 

勉強不足のおバカ議員が図らずも開けてしまったパンドラの箱。そこには立場の違いを超える女性たちの悔しい気持ちや怒りが詰まっていた。その根っこにあるものこそが、日本に今なお残る男尊女卑という問題だ。

 

「なぜ日本に『差別男子』が多いのか、と考えてみると男の子の育てられ方に行きつきます。単に男であるだけで偉いというふうに、根拠のない高下駄を履かされて育つ男の子が少なくない。今回の件をきっかけに『せめて自分の息子は、あの都議みたいにならないように、きちんと育てようと思った』というお母さんの声を聞きました。女の子と男の子、同じように家事の手伝いをさせるなど、家庭内でできることも多いのです」

 

ちなみにこのセクハラ野次、おかしいと思っているのは「働く女性」だけではない。

 

「私の母は専業主婦経験が長いのですが、今回の野次については『全くありえないわね』と言っていました。また、私が仕事で会った60代男性も、信じられないと顔をしかめていました」

これは「女性の問題」ではないことを、多くの人はすでにわかっている。誰もが当事者意識を持つことが、問題解決の糸口となるはずだ。

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