会社員として安定した生活を送るより、お金はなくても好きな時間に好きなことをできる生活のほうが、自分にとっての「豊かさ」だーー。
一昨年上梓した初の著書『ニートの歩き方』が話題となったPha(ファ)さん(35)。ニートの定義である34歳を昨年超えてしまったが、現在も定職を持たずに暮らしている。
そんな彼が働かなくても生きていく手段として提唱したのが「ギークハウスプロジェクト」というシェアハウス。ギークとはパソコンやネットが好きな人という意味で、Phaさんがまさにその1人。
「既存のシェアハウスを転々としたこともあるのですが、こういうところに住む人は、みんな総じて“コミュ力”が高い。いっぽう僕は、ネットで言葉をつづることはできても、対面でしゃべるのはどうも苦手。だったら、自分の居心地のいいシェアハウスを作ろうと思ったんです」
人見知りだけど、一人で住むのは寂しい。家賃をまるごと払うのも大変……自分と似たような「ギーク」を集め、ギークハウスは’08年、南町田の3LDKでスタートした。
同世代の男子が4人、互いにパソコンに向かってプログラミングをしたり、マンガを読んだりして過ごす「ダラダラしたシェアハウス」。その「ゆるさ」がネット上で話題になり、国内はおろか海外にも進出。男女共同、マンションタイプなどさまざまな広がりを見せた。
「まあ、それで僕にお金が入るわけではないんですけど、旅行ついでによそのギークハウスに泊めてもらったりして友達が増えましたね」
その後Phaさん自身は、ギークハウスを南町田から東日本橋の一軒家に移し、さらに現在は練馬区の一軒家へ。4人の同居人と3匹の猫と共に、ゆるゆると暮らしている。その一方で、昨年からはなんともう一軒、家をシェアし始めた。熊野古道にほど近い和歌山県新宮市。東京からクルマで11時間もかかる山奥に、友人と2人で家を借りたのだという。
「刺激のある都会と、静かで自然が多い田舎、両方に拠点を持っていることで生活に広がりも出ました。自分だけで家を持っていてももったいないし、みんなで使えば人が集まって面白い。いよいよお金がなくなったら熊野で暮らせばいいという、セーフティネットにもなっているんです」
現在は東京と熊野を気ままに行き来する毎日。若者と地元のお年寄りとのつながりも生まれつつあり、過疎化する田舎の活性化につながることも、期待しているという。