「十分な説明もなく、いきなり『クリニックを閉じなさい』と通告してきました。食い下がろうとしても『理事会で決定したことだから』と一方的に押し切る。ボクを頼りにやってくる患者さんは、末期がんや通常の病院治療では痛みがとれないような、行き場のない人ばかり。患者さんを平気で放り出す女子医大(東京女子医科大学病院)の理事会は、きわめて不誠実でした」
川嶋朗先生(56)が、語気を強め怒りをあらわにする。川嶋先生は「東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック」で、漢方などの東洋医学、欧州で一般的なホメオパシーなど、西洋医学では改善しない患者のための代替医療に従事。西洋医学と東洋医学の「いいとこどり」をしたオリジナルの総合医療を行っていた。
ところが昨年7月末、理事に呼び出され、赤字を理由に突然、閉鎖決定を言い渡された。そもそも女子医大側が、クリニックの医師を2人から1人に減らしたことによる収入減が、赤字の原因だったのだが。
「理事会の持つ力は大きくて……。一部の発言力のある理事の意見に流されるようです。どうやらボクの部署だけが狙い撃ちされたみたいです。理事の話では、クリニックを閉鎖しても大学に籍を残すことは許されていました。しかしそれでは臨床、研究ができない。逆に大学を辞めたら教育ができず、日本の代替医療はさらに遅れます」
納得できる説明を受けたいと理事全員に手紙を送ったが、返信はなかった。医学部のある教授は今回の理事会の決定方法に疑問を持ち、11月の教授会でも「理事会単独で一つの診療部門をつぶすシステムは問題だ」と決議された。しかし、決定が覆ることはなかった。その後、数回の話し合いが持たれるが、閉鎖の一点張り。
「ボクしか見られない千人以上の患者はどこに行けばいいのか、そんな疑問にも答えませんでした」
クリニック閉鎖後、まもなく報道されたのが、女子医大の禁止薬物による児童死亡事故だ。
「事故の公表すら理事会はせず、疑問に思った医学部教授らが異例の病院非公認の会見を開き『理事会総辞職』を訴えました。しかし反対に理事会サイドから学長や医学部長が解任を突きつけられる結果に。これでは理事会に何も言えません」
川嶋先生の突然のクリニック閉鎖について、本誌の取材に女子医大は「必要な学内手続きを経て閉鎖しました」と文書で回答を寄せた。
現在は都内3カ所のクリニックで、理想の統合医療をつくるため「臨床・研究・教育」に奔走する川嶋先生は、最後に語る。
「今回のボクのケースのように、現場の声が届かない医療体制に、患者が犠牲にならないか不安。女子医大には立ち直ってほしいです」