「監督から日本そのものが欲しいって言われて、今回は構えましたね。妙な責任感というか、やっぱり譲れないところもありますから」
『塔の上のラプンツェル』以降、ディズニー全作品でレイアウトを手掛ける鈴木松根さんの主な担当は「プレヴィジュアライゼーション」。本番のアニメーション製作の前に、CGで簡易的に舞台セットやキャラクターを作って、さまざまなカメラワークを試すなどして本番の構図を決める仕事だ。
しかし、12月20日に公開される『ベイマックス』のプレヴィジュは、いつもとはかなりちがったようだ。
「通常は都市全体を細部までCGで作ってから、その中でカメラを動かしてアングルを決めていくんですが、東京ってアメリカの都市と比べるとディテールが細かくて情報量が多いんです。自動販売機があちこちにあったり、広告看板などもたくさんありますから。そういう細部のデザインまで1個1個模型を作っていたらとても間に合わないと思い、今回はよりラフなセットで先にカメラの動きを決めることにしたんです。そのうえでカメラの見えるところだけ集中してセットを作っていきました」
今作では、そんなプレヴィジュの仕事以外に、アートディレクターの役割も担ったという。
「最初、自分としてはちょっと日本をおしゃれな街に見せたいという気持ちがあったんですが、アートディレクターが持ってきた写真が歌舞伎町だったんです。その後も持ってくる写真は有楽町のガード下とか道頓堀とかハモニカ横丁で……」
ごちゃごちゃ入り組んだ裏路地のデザインは、アメリカ人にとってかなり難しいのだろう。
「たとえば店の裏口にビールケースが積んであったり、バーの袖看板が立っていたり、壁からダクトが入り組んで出てたり……。このへんのところは日本人じゃないと発想できないんですよね。だから、もうデザイン待つんじゃなくて、どんどん自分で作っちゃって、それを確認してもらう方法をとりました。デザインしながら模型も作って。そのときに、仮デザインとして自分の名前を使った“松根本店”とか“スズキ”とか入れといたんですけど、本番でもそのまま残ってるんです。お前頑張ったから残しといてやろうって。だから、ここはもうほぼ私の街です(笑)」