2月1日、イスラム国が公開した、フリージャーナリスト・後藤健二さんとみられる男性を殺害したとする画像。稀有なジャーナリストを襲った悲劇は、彼の仲間たちにも大きなショックを与えた。同じ現場で活動してきた人たちは、後藤さんの人柄、強い信念に引きつけられた。

 

池上彰さんと後藤さんとの交流は、池上さんが『週刊こどもニュース』(NHK)のキャスターを務めていた’02年から。後藤さんはアフガニスタンの子供たちの様子をリポートするとともに、池上さんの番組でスタジオにも生出演。日本の子供たちに現地の状況を説明した。池上さんは語る。

 

「取材する現地の子供たちに対する優しい目線。そして取材した内容を日本の子供たちに少しでもわかりやすく伝えようとする彼の姿勢。後藤さんという人は、一生懸命で優しい人なんだな、ということを感じましたね。

その後、’05年に私がNHKを辞めて、中東取材に行くようになってからもお世話になりました。カダフィ政権が崩壊し、混乱状態のリビアでは『ここは非常に危険だから、取材は断念しましょう』『ここは、そこそこ危険だけれど、リスクを冒す価値はあるから行きましょう』。そういった判断がしっかりできる人で、私は彼の判断を全面的に信頼していました。

後藤さんが戦地から伝えたかったのは、やはり、いちばんの犠牲者は女性や子供である、ということでしょう。今回、後藤さんがイスラム国に入る直前に、録画されたメッセージのなかに『私に何があってもシリアの人たちを恨まないでください』という言葉を残しました。あらためてすごい人だな、と思いましたね。あの言葉こそが、彼の人間愛の大きさをよく表していると思いますね」

 

5年前、シンポジウムで共にパネラーとして登壇した後藤さんとアグネス・チャンさん。その後も、東日本大震災の被災地や、昨年4月には中央アフリカで行動をともにしたという。

 

「後藤さんは子供と仲よくなるのが天才的に上手。どんなに辛いことがあった場所でも、悲しみがいっぱいあっても、子供たちのかわいらしい笑顔を必ず撮ろうとしていましたね。後藤さんの作品のなかの子供たちは、1人ひとりが輝いているんです。

 

最後にあったのは、去年の7月。中央アフリカで一緒だった仲間たちとの食事会のときでした。彼はそのとき『娘が思春期になって嫌われたらイヤだなぁ』って話してました。私が『それは思春期のホルモンの影響で、自分でもコントロールできないことだから、仕方ないのよ』って教えたら、照れくさそうに笑っていました。

彼は、何度も危険なところに行く理由を『誰かが行かなきゃ、みんなその存在を忘れてしまう。誰かの意識のなかに存在しないということは、もはやそれがないことと同じになってしまう』と語っていました。

最後に会ったとき、私は後藤さんに、なぜかこんなことを伝えていたんです。『人間の死には、いろんな段階があるんですよ』って。まわりの人たちがその人のことを覚えている間、思っている間、意志を継いでいる間は、たとえ肉体が死んだとしても死んでないんです、と。そして、みんなが忘れてしまったときが『ストーンデッド(完全なる死)』になるんです、と。だから……私、いま強く思っています。彼の魂が生き続けるように、彼の光を消さないように、彼の意志を継いでいきます」

 

「忘れ去られないように…」と、危険な地帯へも足を運び続けた後藤さん。彼が伝えてくれたことは、たくさんの人々の記憶の中で生き続ける――。

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