今年の春闘は、トヨタ自動車が4,000円、日産自動車は5,000円と、大手企業が相次いでベースアップを発表して話題になっている。
「賃上げの動きは、パートの時給にも波及しています。家具・インテリア小物のニトリホールディングスは1万6,000人いるパートの時給を30.5円引き上げます。昇給幅は3.35%で、正社員の3.16%より大きいものです」
こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。多くの大手企業が賃上げを行った春闘だが、労働者の7割が働く中小企業の春闘はこれからで「先行きは不透明」だ。だが、パートの時給は、春闘と関係ないところでも、じわじわと上がっているという。
「リクルートジョブズの調べによると、首都圏、東海、関西の三大都市圏で、今年1月の平均時給は、前年同月より11円上がり959円。19カ月連続で、前年同月比がプラスになっています。しかも、すべての職種で、前年同月の時給を上回っているのです。時給の上昇は、以前から言われるように、人手不足が原因です」
企業は優秀な人材を集め、長く勤めてほしいと思っている。そのため、他社より高い時給を提示するのだ。
「また、1日の勤務時間が2〜3時間といった短時間勤務を可能にして、小さな子どもを持つママやシニア層を取り込もうとする企業もあります。あの手この手で、人材を確保しようとしている。働く側にとって、時給アップはもちろん、多様な働き方が選択できるのは、とてもありがたいことですが……」
実際のところは、物価上昇を差し引いた実質賃金は19カ月連続のマイナス(厚生労働省・’15年1月)。残念ながらまだ、生活が豊かになったとは言えないよう。
「特に地方では、都市部との格差が縮まりません。先述のリクルートジョブズの調べでも、三大都市圏の平均時給は959円でしたが、九州では807円、北海道では822円、東北では831円と大きな差があります。大手企業で始まった賃上げを、中小企業へ、地方へと広げていけるのか。アベノミクスの真価が問われています」