「我が家の近所に美味しいお肉屋さんがあって、母も昔から気に入っていたんです。9月25日に執り行ったお通夜の席では、そこのローストビーフも皆さんに召し上がっていただきました」
そう語るのは、食生活ジャーナリスト・岸朝子さんの次女・小宮裕子さん。9月22日、岸さんは心不全のため東京都内の病院で亡くなった。享年91。岸さんは最近までずっと元気だったという。
「ここ3、4年で少しずつ、ほっそりしてきましたが、特に体調が悪かったわけではないのです。お酒はセーブしていましたが、ステーキなんかもちゃんと1人前食べていましたし、食べる量は減っていたわけでもありませんでした。今年6月までは仕事もしていました。でも7月ごろ猛暑の影響だと思うのですが、体調を崩し、入院することになったのです。検査をしてもどこも悪いところは見つかりませんでしたが、『大事をとったほうがいい』という医師の判断でした」
そして、そのまま病院で亡くなった岸さん。自宅での最後の晩餐は、ご飯とみそ汁、それに海苔の佃煮だったという。
「母が好きだったのは『鳴門千鳥本舗』の『淡路島産 生のり佃煮』です。それを食べて『おいしゅうございました』と、喜んでいましたね。母はときどき家でも『ごちそうさま』の代わりにそう言っていたのです」
テレビ番組『料理の鉄人』にも出演した岸さんは、「おいしゅうございます」のセリフで人気者に。
「当時は、道を歩いていても『あっ!“おいしゅうございます”のおばさんだ!』なんて、よく言われていたそうです(笑)。入院中の母の容体が急変したのは9月22日の未明のことでした。21日に『危ないかもしれない』という連絡を受けて駆け付けていたのですが、結局22日の午前3時過ぎに息を引き取ったのです。本当に静かに眠るような最期でした……」