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東京・四谷の昼下がり。待ち合わせの交差点に立っていた本誌記者は、一瞬、虹色のバランスボールが飛んできたのかと思った。愛用のグリーンの自転車を駆り、風のように疾走してきた女性。身長149センチの、丸っとふくよかな容貌。ピンク、パープル、シルバーなどに染めた髪をなびかせ、真っ赤なTシャツに七分丈のカラフルパンツ。まるで歩くモダンアートだが、エキセントリックな雰囲気ではない。

 

「遅れてすみません。テレビに出てからというもの、知らない人から声をかけられます。唐突に、一緒に写真を撮ってくださいとか」

 

Dr.まあやこと折居麻綾さん(40)は、息を整えてからていねいに詫び、はにかんだように笑った。出演したのは、この7月に放映された『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)という番組だった。終電を逃した人にテレビクルーが声をかけ、交渉が成立すれば一緒に家を訪問。さまざまな人間模様を映し出すのだが、その夜のクルーは、三軒茶屋の通りでひときわ目を引く麻綾さんを発見。訪れた自宅マンションの部屋も、おもちゃ箱をひっくり返したようなポップな装飾で、しかも職業はデザイナーであると同時に、現役の脳外科医だという。

 

放送直後から、ネット上には「いったい何者?」と書き込みがあふれた。その反響の大きさからか、マツコ・デラックスの人気番組『アウト×デラックス』(フジテレビ系)にもゲスト出演。麻綾さんは、腫瘍細胞や皮下脂肪をモチーフにしたオリジナル生地によるドレスを持参し、さすがのマツコもぼうぜん……。

 

「いま、1週間の半分は脳外科医、残りの半分はデザイナーとして活動する日に分けているんですよ」

 

案内された自宅は、緑豊かな新宿御苑を見下ろす2LDK。リビング中央のテーブルには型紙や布地がいっぱいに広がり、窓辺にはミシンが置かれている。

 

「子供のころからものを作るのが大好きで、特にミシンが好きなんです」

 

そう話しながら麻綾さんはミシンと布を自在に操る。脳外科医としてメスを持つときも、さぞかし精緻な指さばきなのだろう。

 

「でも、脳外科の作業はもっとずっと細かいです。それに、患者さんの命を救うために、脳という完成されたものをやむをえずメスで壊していくのが脳外科医の手術だと思うんです。手術しても脳の機能が完全に戻ることはない手術が多い……」

 

麻綾さんは現在、金曜日に出発し、土曜日から月曜日の朝までは、医師不足に悩む北海道釧路市の病院で2連泊の勤務。羽田空港に戻るや神奈川県藤沢市の病院へ直行し、日中の外来から一晩当直を担う激務をこなしている。脳外科医のときは黒髪のウイッグを装着するそう。

 

その日、麻綾さんは四谷3丁目のストレージ(貸し倉庫)に案内してくれた。2畳ほどのスペースには、去年9月に開催した初の個展『カラフルデブの挑戦』で発表した作品が詰まっている。

 

「太っている人のための洋服を目指したかったんです。ものすごく地味な人間でも色をまとうことで明るさが出てくる。誰でも華やかさを出せる服を作りたいんですね」

 

グルーガン(工作などで使う接着用樹脂)で布を固め、くるくると巻いた洋服など、アートと呼びたいようなユニークな洋服たちである。なぜここまで奇抜なファッションなのだろう。

 

「存在を認められたいんでしょうね。目立たないと世の中から消えてしまう。私、コンプレックスの塊なんです」

 

現在のところ、デザイナーとしての収入は微々たるもの。脳外科医との二足のわらじを履く日々が続く。しかし、最近は「上海ファッションウィーク」への出展の話や、衣装や小物雑貨の業務提携など、身辺が慌ただしくなっている。今年暮れに開催する個展の準備も忙しい。

 

「自分のなかには3枚くらい扉があって、最後の扉は誰にも開けて見せることができない。それは自信のなさとかですが、そのことが私の表現活動の原動力になっているんです」