この4月からの電力自由化を前に、改めて注目されている市民発電所。なかでも、井上保子さん(57)が代表を務める、兵庫県宝塚市の「非営利型株式会社宝塚すみれ発電」は、太陽光発電の可能性をどんどん広げている発電所として、存在感を放つ。
第1号が稼働したのは、’12年12月。現在は5号まで稼働しているが、5つの総出力を合わせても、毎時133キロワットほどと小規模。にもかかわらず注目を集めるのには理由がある。
「電気を売ってもうけるのが、目的やないんです。自分たちでつくった電気を自分たちでうまく使ったら、地域の人たちが少しずつもうかる仕組みがつくれる。それで地域が活性化したら、後からついてくる利益はたくさんある」(井上さん・以下同)
宝塚すみれ発電は、たんに自然エネルギーの発電だけにとどまらない。自治体との協力の下、エネルギーの“地産地消”をツールにした“地域おこし”をおこなっている。実際に、すみれ発電は、これまでユニークな発電所を次々と稼働させた。消滅の危機にあった、近畿圏で長年親しまれている「氷上低温殺菌牛乳」の丹波乳業もその供給先のひとつ。
使用年数10年を過ぎた中古の太陽光パネルを譲り受け、すみれ発電が、丹波乳業の工場の屋根に設置。ここで生まれる電気は、FIT(固定価格買取制度)を通さず、すみれ発電がじかに格安価格で丹波乳業へ販売している。
これは“特定供給”といわれるもので、小さな発電会社が乳業会社に電気を提供するのは全国初の試みだ。すみれ発電のほかの発電所もそうだが、災害時には地域の非常用発電として供給予定だ。
「FITに乗せてない電気で、正真正銘のクリーンな電力」だと井上さんは強調する。FITとは、再生可能エネルギーを普及させるために、一定期間、一定価格での買い取りを電力会社に義務づけた法律だが、批判も少なくない。買取り価格が電力料金に上乗せされていたり、そもそも太陽光発電に関しては、買取り価格が年々低下していて持続性自体が危ぶまれているからだ。
「たしかにFITがあったから再生エネルギーの普及が進んでいるという側面はあると思いますけど、正しく電気料金に上乗せされてるかわからへんのに、そんなもんにいつまでも頼るのはやめとけ、と言いたい」
そう豪語する井上さん。そもそも丹波乳業で使っているような使用10年を超えた太陽光パネルは、FITの適用外。
「でも、十数年使っていても、出力ワットは1%も落ちてない。まだまだ使える。再利用したら、どんどん自家発電、自家消費できると思ってね」
丹波乳業の太陽光発電出力は毎時約30キロワット。丹波乳業は、関西電力から1キロワットあたり毎時約20円で電力を購入しているが、自家発電分は、すみれ発電から15円程度と、割安で購入している。
「エネルギーは、自家発電・自家消費が本来の姿。自分たちが買う電気を変えるだけじゃなくて、電気は自分たちでつくるっていうスタンスを広めていきたいし、そのメリットはこんなにあるというモデルを示していきたいんです」
自家発電・自家消費が進んだら、当然、電力会社から買う量は減っていく。
「一軒ずつは微々たるもんでも積み重ねれば大きい。原発を使う電力会社にもジワジワ圧力をかけていかんとね」
井上さんは、チェルノブイリや福島の被災者の支援もしてきた。自らも被災した阪神・淡路大震災では、避難所にも入れずに路頭に迷う人々を見てきた。個人をつなぐコミュニティを守るためには、自らがつくり出した電力が力になると信じている。