「11年間、専業主婦をしていた私が、いきなり働くことになったわけですから、不安だらけでした。パソコンのスキルもなければ、資格もなくて、40歳手前で子育て中。そんな自分が働ける職場があるのかさえ、わかりませんでした」
そう語るのは、パート社員から社長になった、コンサルタント会社「クラスモア」の坂本玖実子代表取締役(62)。ごく普通の主婦として過ごしていた坂本さんが離婚したのは38歳のとき。5歳と11歳の2人の娘を抱えた彼女が、最初についた仕事は、外資系化粧品の訪問販売だった。客はお金を稼ぐために“戦う相手”と思い込んでいた坂本さん。だが、転機が訪れる。
「飛び込み営業にもかかわらず、ドアを開けてくれる人もいたのですが、それは決まって、私が“売りつけようとした人”ではなく、“何か役に立ちそうと思ってもらえた人”だと気づいたのです。それからは商品を売ろうとばかりせず、お肌の悩みなど、お客さまの声に徹底的に耳を傾けるようにしました。そう考え方を変えただけで、同期の中でナンバーワンの営業成績が取れたのです」
その後、坂本さんは「IDC大塚家具」にパート社員として転職。そこでも“主婦力”が多いに生かせたという。
「私にはインテリアのプロとしての経験はまったくありませんでしたが、専業主婦として、生活者としての経験ならありました。リビングが散らかりやすいことを知っていたから、キャビネットを提案したり、洗濯物を持ったままでも開けやすいタンスを紹介したり、と生活者の視点から、お客さまの暮らしを快適にする提案ができたのです」
そうして、1日で3,200万円という驚異的な売り上げを記録。実績が認められてパートから正社員になり、やがて人材育成部門の管理職にまで上り詰めた。53歳のときに独立し、現在は人材育成会社を経営する坂本さん。主婦が働くことの大切さを聞いてみた。
「それまでは『女性は家にいるべきだ』という風潮があったのに、人手が足りなくなると『主婦も戦力だ』なんていって、働くことを勧め始める。社会は女性に対して身勝手ですよね(笑)。たしかに仕事はキツいことばかりです。でも、自分のことだけでなく、まわりを喜ばせたり、幸せにしたりすることもできる。その経験は、人間として大きく成長させてくれると思うのです」
さらに今は、時代が“主婦力”を求めているという。
「たとえば商品を売るにしても、一人ひとりの欲求に合わせた提案が求められます。そして、そのときに必要なのは、相手のニーズを引き出す“共感力”です。だから、家事や育児、夫婦の関係など、さまざまな経験をしている主婦の“共感力”や視点は、“稼げるスキル”となります。仕事だけに集中できる男性がうらやましかったこともありますが、これからはそんな主婦こそが、社会で活躍する時代になっていくのでしょう」