加熱する各自治体間の返礼品合戦に、総務省が「待った!」をかけたのも記憶に新しいふるさと納税。その一方で、ふるさと納税を“町おこし”の絶好の機会と捉え、熱い思いで取り組む“役場の星”がいる−−。
「平戸市に住んでいる、お菓子作りが趣味だった30代の主婦は、ふるさと納税を原資に市が実施した起業塾で学び、事業補助金でスイーツアトリエを開業。今では返礼品用のスイーツも提供しています。そんな若い人たちが増え、町に活気が戻っています」
そう話すのは、長崎県平戸市の黒瀬啓介さん(36)。海に囲まれた人口3万人ほどの平戸市を一躍有名にしたのは、’14年度にふるさと納税で14億円の寄付を集めて日本一になったこと。’15年度も26億円集めるなど、全国トップクラスをキープする、その立役者が黒瀬さんだ。
「地方が元気にならないと、日本には未来がないと考えています。そのためには、ふるさと納税で地域をどう活性化させるか、ということがとても大事。この制度は“自治体が儲かる”というレベルではなく、日本全体に関係しています。小さな町から日本を変えられるのです」(黒瀬さん・以下同)
黒瀬さんが、ふるさと納税に関わるようになったのは4年前。当時の平戸市には明るいニュースがなかったという。
「人口がどんどん減り続けていくなか、地元で商売をしている人は現状維持がやっと。未来をあきらめてしまう生産者もたくさんいました。でも、ふるさと納税で日本一になったことで、町に無関心だった市民に誇りと自信が生まれました。つまりゼロが1になった。ゼロにいくらかけてもゼロですが、1になったことで可能性が無限に広がったのです。平戸だからこそできるチャレンジがいろんなところで生まれています」
黒瀬さんがこれからのふるさと納税について語る。
「この制度は永遠ではありません。今は返礼品が地場産業の活性化の起爆剤になっていますが、そこに依存しているだけでは生き残れません。ふるさと納税をきっかけにして、市内の生産者や事業者が、商品やブランドを磨き上げることが重要です。ふるさと納税は地方自治体が試されている制度でもあるのです」