「私も首相のときは、原発を推進していた。だけど、それが間違いだったとわかったから、考えを改めた。過ちだとわかって改めないことこそ、本当の過ちなんだよ」
そう言って豪快に笑うのは、小泉純一郎元首相(76)。小泉氏は、’11年に起きた福島第一原発事故の悲劇を目の当たりにし、原発推進から、“脱原発”へと大きく考えを変えた。
’13年ごろから講演で全国を回っていたが、近年、高浜原発(福井県)、川内原発(鹿児島県)など、再稼働を進める動きに危機感を強め、講演のペースは一気に上がった。
「北海道から九州まで、平均月に2~3回だったのが、昨年の10月は10回、11月は8回。さすがにちょっとやりすぎたかな(笑)。でも依頼が引きも切らないんだよ」(小泉氏・以下同)
すでに、今年11月の公演予定も入っているという。どの会場も満員で、「小泉さん、脱原発がんばって!」と声がかかる。昨年は、原発再稼働を進める安倍首相のお膝元、山口県にも乗り込んだ。
「安倍首相は、原発再稼働を進めているし、そのうえ山口県は、4つある選挙区すべてが自民党議員。みんな原発賛成だ。これはやりづらいな、と思ったんだけど、あそこには建設計画中の上関原発があってね。福島原発事故前から熱心に反対運動をしている人たちがいるんだ。彼らに、『安倍さんのお膝元だからこそ、小泉さんに来てほしい』と頼まれて。その熱意にほだされた。全国どこに行っても、原発を止めなきゃいかんという声は根強いよ。この法案を国会に提出して、与野党で議論を深めていきたい」
小泉氏が言う“この法案”とは、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」のこと。1月10日、小泉氏が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」は骨子を発表。国内にある原発の即時廃止や、再稼働の停止、核燃料サイクルの廃止、自然エネルギーへの早期転換などを求めている。野党とも連携し、今国会での法案提出を目指す。
小泉氏がここまで必死になるのは、自身も、「原発推進派のウソ」に騙されていた、という後悔があるからだ。
「原発推進派は、日本の原発は安全だと言い続けていたけど、原発に“絶対安全”なんかないことは、福島の事故でよくわかった。とくに日本は、地震や津波、火山の噴火が何年かごとに必ずやってくる。地質学的にも危険な地域だ」
先日も草津白根山が突然噴火したが、より原発に近い火山が噴火したら、どうなるか――。
「再び事故が起これば、住む場所を失う人がまた大量に出る。だいたい福島に関しても、政府は『収束した』と発表しているけど、していない。汚染水、あれはどうするの。除染で出た大量の汚染物質、焼却しなきゃいかんと言ったって、焼却をすれば、放射能が出る。壊れた原子炉から中の燃料棒を取り出すと言っているが、人間がそこに立てば1分ほどで死ぬくらい危険だ」
小泉氏は、そう言って、故郷を追われた福島の人々にも思いを寄せる。
「40年たったら帰れると言う人はいるけどね。40年ふるさとを離れた人がほんとうに帰れるか。40歳の人は80歳に。10代、20代の人は、50~60代になる。そう考えると難しいね。原発事故が起きたら、そういうことになるんだ」