現在、女性の伝統工芸士は全国に614人。女性蔑視が当たり前だった職人の世界で戦う彼女たちは、女性目線の新たな感性で優れた作品を生み出し続ける。そんな男社会だった“伝統”に風穴を開ける、京都で活躍する女性伝統工芸士を紹介。きらめく用の美はまさに匠の業だ。
【京くみひも】結城和子
「紐というのは帯締めであったり、刀の下緒であったり“相手”があって初めて生きる、とよく言われます。だからね、いろんな伝統工芸品の展示会場で、私らの『京くみひも』が、正面を飾ることは、まずないんですわ」
こう言って、結城さんは笑う。しかし、組み紐職人としての矜持がないはずもない。それは、ほかの工芸品にも決して引けを取らない歴史の重みだ。
「仕留めた獲物を結ぶなど、紐というのは太古から人の営みになくてはならないものやったはずです。とくに組み紐は、世界中に昔からあったんです。それが、日本では絹という素材と出合い、公家や貴族、そして武家の文化と結びついて、実用品としての前提を持ちながら著しい美的発展を遂げた。その結果が、現代の京くみひもです」
友禅工場を営み、草木染め研究の第一人者でもあった結城さんの父親は、懇意にしていた「安達くみひも館」に娘を託した。
「そこの社長がまた、遺跡の埋蔵物の復元やら、古い組み紐の修復に熱心な方で。私もずいぶん古い時代の紐の仕事で、勉強させてもらいました」
いちばんの思い出は’80年、奈良・東大寺大仏殿の大修理に伴い、約1200年ぶりに行われた全60巻の経巻奉納「昭和大納経」だ。
「文化勲章を叙勲した偉い書家や日本画家の先生方がお経や見返し絵を描かれて。その巻物に付く紐を、天平時代の組み紐の技法を踏襲して、私らが組んだんです。全60巻の紐を用意するのに、10倍、600本ぐらい組んで、出来のいいものを納めたと思います。社長に『多くの人に、後々の人たちに見られるんやで!』とハッパをかけられて。光栄なお仕事でしたが大変でねぇ。泣きながら組みましたよ(苦笑)」
【結城和子/ゆうきかずこ】
’50年、京都府生まれ。’72年、組み紐業者に入社。’80年、東大寺の昭和大納経に携わる。’91年、伝統工芸士に認定。’92年、独立。
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