資格といえば、“キャリアアップ”や“昇給”のために取得するもの、と考えている人は多い。しかし、資格はもはや、“いまの仕事”でステップアップするためだけに取るものではなくなってきている。生活のなかで直面する“ピンチ”を解決するヒントになるような、役立つものにあふれている。
「食について知るだけで人生が豊かになるとは、まったく考えてもいませんでした」
そう語るのは、「食生活アドバイザー」の資格を持つ市野由美さん(51)。現在は、野菜を中心にしたヘルシー弁当を販売する株式会社Befardで、スーパーバイザーとレシピ開発をしている食生活の“スペシャリスト”だ。
意外にも市野さんは、かつてIT業界でシステムエンジニアをしていたという。
「長時間労働が当たり前で、睡眠時間は毎日3時間。朝ごはんを食べずに出社して、昼と夜はコンビニのお弁当やサンドイッチ。そんな生活を20年近く続け、食事にまったく興味がなくなっていました。そのうち生理が来なくなり、心身ともに少しずつ調子を崩していきました」(市野さん・以下同)
そして市野さんが39歳のとき、父親が胃がんになり全摘手術を受けることに。
「看病しているなかで、『胃を摘出した人に、どうやってご飯をあげたらいいか』と考えることが多くなりました。それだけでなく、亡くなる直前まで仕事に向き合っていた父の姿を見て、いまの仕事を続けていくことを疑問に感じるようになったんです」
そんな経験から「食」に興味を持った市野さんは、健康的な生活を送る提案ができる「食生活アドバイザー」の資格を知った。
「栄養や食文化や習慣、食品表示や添加物などの食品学、流通やマーケット、法律まで広い分野を学ぶのがこの資格。それまでは食品を買うときカロリー表示だけ見ていましたが、勉強していくうちに、原産地などの食品表示に目が行くようになりましたね」
’12年に「食生活アドバイザー」の資格を取得すると、市野さんはシステムエンジニアの仕事を辞めて、「食」の世界に飛び込んだ。
「知人がやっているレストランから《メニューについてアドバイスしてほしい》と頼まれて、フルタイムで働く調理担当に転職しました」
これまでの経歴を捨てることに多少の不安があったが、資格を持っているという自信に背中を押された。
「物流や食文化について身についたことで、食材の調理方法や調理の仕方にもアドバイスすることができました」
その後は調理免許を取得するなど、さらにステップアップ。資格を取った効果は、仕事以外にもあると語る。
「一食一食に気を使うようになっただけで、私自身がよく寝られるし、睡眠の質も上がったようです。生理も規則正しく来るように。またシステムエンジニアをしていた夫も、ひどい食生活で体を壊していたんですが、そんな夫の体調も、食事を意識することで改善されていきました。それまで食卓では仕事の話だけでしたが、いまでは食の話題も加わり、いろんな会話をしています」
笑顔で語る市野さん。ある意味、父親の病気がきっかけを作ってくれた資格取得。健康だけでなく、多くのものを取り戻したようだ。