「政府は、主婦が『130万円の壁』を越えて働きやすくするために、事業主向けの補助金を支給すると表明しました」
そう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。130万円の壁は、会社員などの妻がパートで働くとき、年収が130万円未満だと夫の扶養に入り社会保障料の負担はないが、年収が130万円を超えた途端、年間20万円近くの社会保険料が必要になることで生じる。
「年収130万円未満と、年収130万〜150万円くらいまでとを比べると、年収130万円未満のほうが保険料を負担しない分、手取りが多くなります。このため、年収が130万円を超えないように働く時間を調整する方が多く、女性の働く意欲をそぐと問題視されているのです」
そこで、今回の補助金は、パートの時給を2%以上引き上げるか、働く時間を週5時間以上増やすなどをした企業に支給される。パートが企業の健康保険や厚生年金に加入することが条件で、来年4月間限定の施策だ。具体的にどんなものなのか?荻原さんが解説してくれた。
「たとえば今年、時給1千円で週20時間働いた方の年収は約104万円で、保険料負担はありません。この方が時給1千円のまま、週5時間長く働くと、年収は約130万円。保険料は約20万円かかっても、手取りは約110万円ですから、前年の約104万円より増えます(いずれも税引き前)」
また、企業の健康保険に加入すれば、病気やけがで会社を休んだとき、給料の3分の2相当が1年半支給される傷病手当金の対象になり、厚生年金に加入することで老後の年金が多少増えるといったメリットもある。
「この保険料は、本人と雇う企業の折半です。企業にとっても、パート1人を保険加入させると、約20万円の保険料が必要ですが、この補助金を充てることができるのです」
政府は、補助金があれば働くほうも雇う側も保険料の負担が軽減され、130万円の壁が越えやすくなると言う。加えて、来年10月から、従業員が501以上の企業に勤めるパートは、年収106万円を超えると保険加入が義務となる。保険に加入するか、年収を106万円までに抑えるかで迷っている人に、保険加入を後押しする意図もあると思われる。
「これらは一見、パートで働く方には朗報とも思えます。しかし実際は、補助金があっても、130万円の壁を気にせず働けるようになるパートは、少ないと言わざるをえません。なぜなら、時給をいったん上げると、よほどのことがない限り下げられませんから、企業は時給を上げようとはしないでしょう。補助金は、時給を据え置いても、長く働かせれば支給されるのですから」
しかし、働く側には子育て中などの事情で、今より長く働けない人もいる。
「また、そもそも働く時間を増やして130万円の壁を越えるのなら、現状と変わりません。働く側から見ると、時給アップでないと補助金のメリットは感じられないでしょう。いっぽう企業にとっては、この補助金が4年間限定という点がネックになります。補助金終了後も当然、保険料の負担は続きますから、先の見通しが立たないなかで、この補助金を利用しない企業も多いのではないでしょうか」