全国で土壌測定を続けているNPO法人市民環境研究所の研究員で、第一種放射線取扱主任者の河野益近氏は、ホコリの吸い込みリスクについて、次のように指摘する。
「風で舞い上がった細かな土や砂は、雨に吸着するなどして地上に降りてきます。車のタイヤなどに付着して移動もします。だから、除染した場所でも、時間が経つと放射性物質がたまる場所がでてきます。人が呼吸によって放射性物質を体内に取り込むことも考慮しなければいけません」
河野氏に清掃拠点のひとつである「道の駅南相馬」付近に溜まっている土を集めて、網の目の細かいふるい(100ミクロン程度)にかけ、肺に吸い込む可能性がある細かな粒子に含まれている放射性物質を測定してもらった。すると1万1410bq/kg(※)の放射性セシウムが検出された(法令〈核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律〉に従えば100bq/kgを超える汚染物質は、ドラム缶に入れて厳重に管理しなくてはならない)。清掃中の地元住民の男性に放射線のリスクについて聞くと、あきらめたかのようなこんな答えが返ってきた。
「ハッキリ言って、原発事故があったんだから、安全なわけないんです。みんな本当は、うすうす気づいているはず」
各々が拾った清掃ゴミを集めて、イベントは午前中に終えたが、ボランティアで参加している子供たちに健康リスクが生じたら、大人はどう責任をとるつもりだったのだろうか。西本氏に問うと、キッパリとこう答えた。
「まったく考えていません。イベントに参加しているのは、みんな高校生。個々の判断で、個々の責任において参加してもらっています。そのあとどういうことがあっても、それは自分で判断したことです」
個々の判断と言うならば西本氏が冒頭で話したように、主催者側が事前に測定し、学校に連絡した現場の空間線量を子供たちが確認して、安全だと判断したうえでイベントに参加したのだろう。そう考えて参加校数校に問い合わせると、驚くべき事実がわかった。
「空間線量? 聞いていませんね。去年も参加しているので、とくに問題ないと認識しています」(双葉翔洋高校)
「主催者から空間線量は伝えられていません。だから生徒にも伝えていません。参加は自由ですし、清掃イベントがあると告知しただけです」(ふたば未来学園)
後日、ふたたび西本氏に、「学校側は、事前に空間線量を知らされていないと言っているが」と確認した。
「直前まで参加するかわからなかった学校には伝えていません。事前に空間線量を測ります、ということは伝えてあるけども……」
学校に空間線量を事前に知らせているという冒頭の話はウソだったのか――。
空間線量も知らされず、判断材料もないまま、参加した子供たちに健康被害が生じたら、「自己責任」にされてしまうのだ。そんな無責任なことがあっていいのだろうか。
「今後、子供たちが走りたいと言うなら、国道6号線で五輪の聖火リレーができるようにしたい。しっかり除染をしてもらいます」(西本氏)
被ばく覚悟の聖火リレーで復興アピールをするつもりなのか。健康リスクを無視して真の「復興」はありえない。
(※)風や雨で移動する細かい土砂のみを採取する場合は鉄管を使用しないので、容積(立方メートル)ではなく容量(kg)あたりに含まれる放射性物質を測定する。
取材・文/和田秀子