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今回の福島原発事故処理費用の国民負担策は、20年から始まる本格的な電力自由化の妨げになっている側面がある。

 

そこでは必要なコストをすべて原価に組み入れて電気料金に反映できる“総括原価方式”が撤廃され、各電力会社は自由に電気料金を設定できるようになる。つまり、より安い電気を提供できる事業者に顧客が流れる可能性があるわけだ。

 

経産省が、託送金に事故処理費用を上乗せするシステムの構築を急いだのには、20年に送配電事業も完全に分離されることが、大きく関係している。

 

「そうなると、多額の事故処理費用を抱える東電は、競争力が落ちて不利になります。だから、新電力に乗り換えた利用者も、必ず支払う託送料金に賠償費用や廃炉費用を上乗せして、広く徴収できる仕組みをつくろうと必死です」(大島堅一・立命館大教授)

 

本来、電力自由化は消費者にとって安い電力やクリーンな電力を使用している会社を選ぶチャンスのはずだ。そういうチャンスをつぶしかねない姑息なやり方に、新電力事業者からも抗議と疑問の声が上がっている。

 

企業向けにも電力を小売りしているエネックス株式会社の代表取締役榎本弘容氏は、こう語る。

 

「電気を大量に使用する企業の場合、月の電気代が数百万単位で値上がりする可能性もあります。大手電力会社なら、ある程度、値上がり分を吸収できます。しかし、小規模な新電力会社の場合は経営圧迫につながるので、企業に負担をお願いせざるをえなくなるかもしれない」

 

一般家庭向けに再生可能エネルギーを販売するパルシステム電力の野津秀男氏も憤りを隠せない。

 

「新電力事業者の中には、託送料金に上乗せされた“過去分”の賠償額を、電気代に転化せず、かぶろうとするところもある。そうなれば、利益率が下がり、小さな事業者は新規参入しづらくなります」

 

パルシステム電力が供給している電気は、バイオマス発電など100%原発に頼らない電気だ。

 

「二度と福島のような事故を繰り返さないためには、電力自由化を進めて、消費者が求める電力を、みずから選べるようにすべきです」(野津氏)

 

取材・文/和田秀子

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