「大手銀行や旅行代理店、損害保険会社など、学生やその親は、安定して高収入が望める就職先を希望するものです。でも、これからは『10年先にどんな経営状態になっているか』で選ぶべきなんです」
こう話すのは、経済評論家の加谷珪一さんだ。6月1日が、採用選考開始“解禁日”となる就職活動。解禁直前のいま、大学4年生は企業研究に大忙しのはず。文部科学省と厚生労働省が5月18日に発表した、4月1日時点での新卒就職率は「98%」という最高値。
「景気回復に伴い企業の採用意欲が向上」と、文科省は分析をしているが、加谷さんは、「この数字にはからくりがある」と指摘する。
「最大の要因は、『若年層の人口減』でしょう。この10年で新卒は14%ほども減少しているんです。しかし、企業は新卒採用の数を毎年キープしたい。それは、新規事業など、企業成長のための施策に人員が必要になるからです」(加谷さん・以下同)
同じペースで採用を続けていった場合、もしその企業が経営不振に陥ったら、どういうことが起きるのか。
「日本では不当な解雇はできませんから、基本、終身雇用と考えていいのですが、解雇しなければ、新規事業のたびに人が増えていきます。分配できる給与はどんどん少なくなり、『終身雇用なのだから待遇、給与が下がるのは我慢しろ』という理屈をふりかざされかねません」
“これで将来も安心”と思って入ったはずの大企業で、まさかの“待遇格下げ”――。「日本郵政」が、正社員約5,000人に福利厚生として給付していた「住宅手当」を10月からカットすることを決定したニュースは記憶に新しい。
では、いったいどんな企業が“先行き不安”といえるのだろうか――。加谷さんによれば、そういった会社は、ある共通点を持っているという。
「最初に目を向けなければいけないのは、『売上高が伸びていないのに、社員数が毎年、増加している』会社。後々、社員の待遇が悪くなっていく可能性があるからです」
就活生に圧倒的人気を誇る“メガバンク”。だが、’13年~’17年の社員数の増加率と売上高の増加率をまとめたものに基づき、加谷さんに将来性を評価してもらうと、“先行き不安”なところも。
「いま、日本には『人手は足りないけれど、人材は余っている』という企業が多い。その典型例がメガバンクです。人手不足なのに、なぜあれだけの大リストラをするのかというと、いま雇用し続けている旧来型の手作業のスキルや、ルート営業などは、事務作業のIT化などで、どんどん“不要な人手”となっていくからです」
増員したいのは「プログラミングなどのスキルを持つIT化に即した若い人材」だというが……。
「そういう人材は、『DeNA』や『メルカリ』などの独立系IT会社が新卒初年度年収で『1,000万円』とか『1,500万円』という待遇で採用していきます。有能な人材は、そういう会社が“1位指名”してしまうということです」
これから就活する子を持つ親は、数十年前の自分たちの就活時代の感覚でアドバイスしてはいけないご時世になったようだ。
「かつては羨望のまなざしを向けられたネームバリューを持つ企業のなかでも、“一寸先は闇”と言える企業が少なくありません。AI化、グローバル展開……さまざまな観点から企業を分析していく必要があるんです」
もちろん、単純に「この企業はリスキー」と言い切れるものではない。同じ業種でも伸びしろがあるかないか、しっかりと見抜く力が必要とされているようだ。