ついに執行された麻原彰晃死刑囚(63・松本智津夫)の死刑について、オウム真理教事件を追い続けてきた関係者たちの思いはさまざまだった。被害者たちの救済に尽力し続けてきた紀藤正樹弁護士は言う。
「なぜオウムのメンバーがあれほど暴走したのか?といった検証もきちんとされませんでした。いまや世界中で宗教テロが起こっており、日本だけが安全圏にいるわけではありません。今後のためにも検証を重ね、宗教テロ再発を未然に防ぐために役立てるべきだったと思います」
ジャーナリストの江川紹子さんは、7人同時の死刑執行には違和感を覚えたという。
「7人が同時に死刑執行された点は、良くなかったと考えています。はたして“高弟”たちを“尊師”といっしょに旅立たせる必要があったのか……。オウムの流れをくむ組織が残存していますが、彼らによって“麻原に帰依して殉じれば、次の世でもいっしょになれる”など、尊師に対する忠誠心を強化するため利用される懸念があるからです」
暴力的破壊活動を行う団体の調査を担当しているのが公安調査庁だが、その関係者の言葉にも緊張感がにじんでいた。
「オウム真理教の後継団体は3つ(※アレフ、ひかりの輪、山田らの集団)に分かれていますが、我々はこれまで以上に厳重に警戒しています。今後懸念されているのは、麻原が死刑執行されたことで殉教者のように祀られて、組織が強化されていくことです。さらに閉鎖的な団体になることで、反社会的な思想を正当化していき、一部の信者が暴走する危険性もあります」
公安関係者たちが特に注視しているのが、麻原死刑囚の遺骨の行方。7月9日に麻原死刑囚の遺体は火葬された。だが死刑囚が生前に引き渡し先として指名していたという四女が「身の危険を感じる」といった意向を示したため、遺骨は当分、東京拘置所に保管されることになった。
「遺骨を手にした人物が、残った信者たちの間での発言力を増す可能性もありますし、3つの団体での争奪戦になるかもしれません。また遺骨の埋葬された場所が、聖地として信者たちからあがめられるようになることも考えられるのです」(社会部記者)
実は3年も前から、死刑執行によって表れる“危険な変化”を本誌へ予言していた人物がいる。麻原死刑囚の三女・松本麗華さん(35)だ。彼女は本誌インタビューで次のように語っていた。
《まだ父の死刑執行はすべきではないと思います。これは決して父親だから命を救いたいという願いではなく、現状で父が死ねば、間違いなく殉教者として神格化されてしまうからです。実際に教団幹部の中にも、組織拡大のために早い処刑を望む人もいると聞いています》(本誌15年4月7日号)
“死刑により父は神になる!”、そんな三女の予言が、現実化しないことを祈るばかりだ。