1月に閉館した千葉県の水族館に、いまなお1頭のイルカと46羽のペンギンが、引き取り先が決まらず、取り残されている問題。「イルカがひとりぼっちでかわいそう」「早くいい施設に移してあげて」などSNS上で心配の声が高まるなか、水族館経営者は沈黙を続ける。さまざまな憶測が飛び交うなか、本誌は上空から撮られた水族館施設の写真を入手。ペンギンたちの実情を取材した――。
来館者の減少と施設の老朽化から1月に突然閉館した犬吠埼マリンパーク。7カ月が経過した現在も、フンボルトペンギン46羽、雌のバンドウイルカのハニー、約40種の魚類、両生類など約500匹がそのままになっている。
以前からハニーの飼育状況を問題視していた動物愛護団体PEACEのSNSでの呼びかけを機に表面化したこの騒動。千葉県衛生指導課によると、「おおむね月に1度は県職員が立入り調査をしています」ということで、健康状態などは一応確認されているというが……。
閉館発表のときは「ほかの水族館に譲るため同業者に声をかけていく」と話していた水族館側だが、あるときから没交渉になり連絡もとれなくなったという。協力を表明した日本動物園水族館協会や受入れ先として名乗り出た淡島ホテルの呼びかけにも8月31日時点で返事はない。
海洋ジャーナリストの永田雅一氏によれば、水族館はランニングコストが高いため、閉館後は速やかにほかの水族館に譲渡するのが通例だという。「月のエサ代が約100万円、光熱費だけでも約400万円になると思います」。ここまで長期間にわたり飼育し続けるケースは過去に例がないそう。収入源が途絶えたいま、なぜ?
「フンボルトペンギンはもともと温帯に生息するペンギンで、日本の気候に合っているので育てやすく、欲しい水族館はたくさんある。イルカも引く手あまたです。それでも譲渡しないのは、ロケーションもいいですし、まるごと売却を考えているのではないでしょうか? 外国資本も視野に入れているかもしれません」(永田氏)
しかし、40年以上ペンギンの調査と研究を続けているペンギン会議研究員の上田一生氏は、「フンボルトペンギンはワシントン条約で最も厳しい付属書I指定に属する絶滅危惧種なので無責任な譲渡はできません。設備と環境の整った実績のある施設が望ましいです」と警告を鳴らす。
「経営者が出てこないことで余計に不信感を招いてしまう。説明して世間を納得させないと。生き物を飼っている以上、飼えなくなった場合の想定もして、最後まで命に責任を持つべきだと思います」(永田氏)
水族館の人気者として一、二を争うペンギンとイルカが、このまま人目にふれず飼い殺しにされるのはやはり忍びない。さらに、貴重な絶滅危惧種を飼育する以上、繁殖や研究に力を入れることも水族館の大事な使命であろう。
記者が犬吠埼マリンパークを訪れた日は、飼育員さんが1人でエサやりや、イルカのプールの清掃をする姿が見えた。イルカのハニーはあまり泳がず、浮いているだけの時間が長く、心なしか元気がないように見えた。
8月最終週、本誌は犬吠埼マリンパークに何度か連絡をしたが応答はない。ペンギンたちが安らげる日が一日も早く来ることを祈りたい。