「今回の最大の焦点となったのは自動車の関税引き上げでしたが、“当面回避”での合意となりました。今後交渉が始まる農作物の貿易交渉に関しては、安倍首相も米国の要求に対して“妥協”を迫られることが予想されます」
日本時間9月27日未明、ニューヨーク市内のホテルにて、1時間15分におよぶ日米首脳会談が行われた。安倍晋三首相とトランプ大統領との間で、日米の貿易交渉や北朝鮮問題などについて話し合いがなされた。
第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト・永濱利廣さんは、その合意内容を冒頭のように語った。
「自動車の輸入関税が引き上げられれば、日本からアメリカに輸出される車の販売にとっては大打撃となります。仮に日本国内での製造台数が10%落ち込むと、GDPでは4兆円の損失、4万人もの雇用に影響が出ると試算されるのです」(永濱さん)
日本の景気にも直結する自動車関税については、「現状維持」を守ることができた形だが、まだ「農作物」の関税問題が控えている。
まず予想されるのが、米国から日本への牛肉の輸入問題だ。
「農作物の輸入関税が引き下げられれば、米国産牛肉の価格は下がり、国内の農業は打撃を受けることになるでしょう。交渉内容が米国の望む方向に進まなければ、トランプ大統領は、脅しの意味で自動車関税を再び持ち出してくる可能性がありますから、安倍首相も“次”は守り切れないかもしれません」(永濱さん)
消費者としては、牛肉が安く買えるのであれば、一見メリットのほうが大きいが、ハーバード大学の元調査員で、内科医の大西睦子さんは、米国産牛肉の“食の安全”を疑問視する。
「米国では1950年代から、『オーガニック』と表示されているものでないかぎり、多くの牛肉に成長促進剤である『合成女性ホルモン剤』が使用されています。しかしこれは、発がん性が懸念されているものなのです」(大西さん)
牛肉の輸入量が増えれば、米国産の乳製品も、販売網を広げる可能性がある。
「米国で生産される牛の5頭に1頭という高い割合で使用されているのが『遺伝子組み換え牛成長ホルモン』(rGBH)です。これを投与された牛は、インスリン様成長因子(IGF-1)として知られる別のホルモンのレベルを増加させることで、牛乳、チーズなどの乳製品の生産量を、一気に増やすことができるわけです」(大西さん)
日本の厚生労働省にあたる米国食品医薬品局(FDA)は、この薬を’93年に認可しているが、大西さんは「先進国では米国だけ」と、rGBHの認可について懐疑的な見方をしている。
「このホルモンを投与された牛の牛乳は、乳がんや前立腺がんのリスクになるとの説があるIGF-1の濃度が高い、という研究レポートがあるからです」(大西さん)
国の経済はもちろん大事なことだが、それを優先することで、食の安全を脅かすような決断をしてもよいのだろうか。安倍首相が、トランプ大統領の“ごり押し”をいなしてくれることに期待したい。