じつは裁判になる相続争いの3割は1,000万円以下の財産を巡るもの。関係ないと思っている人にこそ読んでほしい遺言書のすすめ――。
「自分で遺言を作成する場合、これまではすべてが自筆である必要がありました。しかし、1月13日に施行された改正相続法では、パソコンなどで作成した財産目録や通帳のコピーなどでも、本人が署名・押印したものであれば、認められるようになりました」
相続問題に詳しい弁護士の外岡潤さんはそう解説する。40年ぶりに改正された相続法。’20年7月までに順次施行されていく予定だ。
「新制度によって、これまで対象でなかった人が新たに相続の対象になったり、遺産の分割の選択肢が増えたりします。知らないと、損をしたり、トラブルになってしまうこともあります」
それを防ぐには改正相続法の趣旨を理解すること。そして……。
「高齢の親御さんが健在のうちから、円満な遺産相続の準備をしておくべき。トラブル回避には、遺言書の作成がいちばん有効です」
遺言には一般的に、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類ある。
「『日付』『署名』『押印』がなければ、遺言書と認められません。自筆で遺言書を書いた人が、押印を忘れたり、『2月吉日』と書いたりして、無効になることも。一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらったのち、役場に保存されるので、記載ミスや紛失の心配もないというメリットがあります」(外岡さん)
では、親がなかなか遺言を書いてくれない場合、「うまい書かせ方」はあるのだろうか?
エンディングメッセージ普及協会理事長で、マネーセラピストの安田まゆみさんが、「遺言を進んで書く気にさせるテクニック」を教えてくれた。
「まずはエンディングノートを、遺言を書く準備として活用しましょう。親には自分が亡くなった後のことではなく、まずは覚書として、これから先の家の修繕の予定などの日常的なことや、通帳や印鑑の置いてある場所、本籍地など、簡単に書けることから始めてもらうようにしましょう」
ノートを書くことに慣れてから、「認知症になったらどうしてほしいか」や「延命治療はどうするか」など、“終活”についても書いてもらうようにする。
「その際、『お父(母)さん自身のためなのよ』と言い添えましょう。考えをまとめて、メモ代わりに使うことが自分自身のためになることを伝えます。実際、これから先のことを考えたり、口座をまとめたりしていくなかで資産を把握していけば、自分が亡き後のことに思いが向きます。そうなれば、相続についても『自身の考えをまとめてメモしておこうか』と考えるようになるでしょう」
ここまでくれば、遺言書まであと少し。前出の書式さえ守れば、どんな紙に書いても構わない。
「便箋でもいい。とにかく書き始めてもらうことが大切です。それを専門家に法的に有効かをチェックしてもらえば、自筆遺言証書ができあがります」(安田さん)
相続法改正で『配偶者居住権』など、より複雑な相続の方法が認められるようになった。『配偶者居住権』は、’20年4月から施行される新制度。これまで残された配偶者は遺産分割の関係から、住み慣れた自宅を売却せざるをえなかったり、自宅を相続できても現金をほとんど受け取れないことがあった。だが、自宅の「所有権」と配偶者の「居住権」を分けることで、遺産を分割しても、配偶者が自宅に住み続けられるようになる。
しかし、相続は難しいし、別に自分が得しなくていいので、法定相続分さえもらえればいい、と考えている人も多いだろう。
「遺産と言っても、形はさまざま。たとえば、兄弟姉妹間で、同じ金額で遺産を分割する場合でも、土地建物でもらうのか、金融資産でもらうのかで、争いが生まれてしまうことがあります。でも、遺産という形でどう分割するか指示されれば、争いになる可能性が大きく減る。故人の遺志には逆らいにくいのです」(外岡さん)
自分の死後、子ども同士が争ったり、困ったりすることを望む親はいない。あなた自身のためだけではなく、親のためにも、遺言について話し合ってほしい。