「蹴飛ばしたり、石を投げるなんてざらです。飼い犬に猫をかみ殺させる人や、ゴルフクラブで顎を砕く人もいました。人に捨てられた猫の多くは飢え死にしますが、生き残った猫たちもそういう過酷な状況で暮らしています。その実態を知ったときに、放っておけない、と奮起しました」
身勝手な人間たちから残酷な仕打ちを受けている多摩川の河川敷にすむ猫たち。その保護活動を30年間続けているのがカメラマン・小西修さん(63)だ。
小西さんは、仕事のある日以外毎日、多摩川の河川敷を妻と2人、手分けして回る。そして餌をやったり、ケガや病気のある猫を見つけた場合には、自宅で看病したり病院へ連れていったりして飼い主を探すところまでケアしている。
「自宅では、虐待にあって人間不信になっていたり、重い病気にかかっていたりするコたちの世話もしています」
猫たちの治療費や餌代は、多い月で100万円近くかかることもある。
「ありがたいことに寄付をしてくださる方がいるので、それでまかなえるときもありますが、足りないときは貯金を崩しながらやりくりしています。物欲もないので、地味に暮らしていますよ」
なぜそこまでして活動するのか。
「猫が大好き、という思いでやっていることではないんです。気の毒なものを見ると、見て見ぬふりできない、という自分の性格です。やっていてうれしいのは、具合が悪い猫が元気になったときと、新しい飼い主さんに届けたとき。不憫なコが立派な飼い主にもらわれていった日には、もうこのコは安心して暮らせるんだと、うれしくて寝酒がふだんの3倍に(笑)」
猫の保護活動と同時にホームレスの人たちへの支援にも熱心だ。
「多摩川の猫たちはホームレスの人にかわいがられていたりするんですが、彼らは自分は水道水しか飲まなくても、猫には餌をあげていたりするんです。それは“この猫たちにも生きる権利はある”という考え方。そういうのを見てしまったら、困っている人を自分のできる範囲で優先しようと、猫だけでなく、ホームレスの人たちの支援もするようになりました」
自分は決して社交的なタイプではないと語るが、「小西さんのおかげで今ここで生きています。神みたいな人」とおおぜいのホームレスが信頼をおく存在になっている。
「いえいえ、私じゃなくて、猫パワーがすごいんです。猫が人と人をつなぐんです。僕が足をケガして、引きずりながらしか歩けないときも、多摩川に行ったら不思議とシャキッとなります。猫たちの元気な姿や、ホームレスの方々の笑顔を見るからですかね。私たちは当たり前のように毎日ご飯を食べていますが、彼らは今日食べるものも保証されていない。休むわけにはいきませんよね」