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神戸市・須磨寺で開催されたこの大会。初めて宗派を超え話題となった今回、400人の聴衆席は満席に。「もう一度このお坊さんに会いたい!」と思わせた法話は、いったいどんなお話なのか……。

 

6月2日、須磨寺(神戸市須磨区)で開催された「H1法話グランプリ」(以下、H1)。H1では宗派を超えて自薦、他薦で募った7組8人のお坊さんが参加し、持ち時間10分の中で、それぞれが趣向を凝らした法話を披露。それを聞いた観客と審査員が、1人3票ずつ投票。もっとも票が集まったお坊さんがグランプリとなる、まさに法話のコンテストだ。

 

「決して各宗派の優劣や、法話の良しあしを決める大会ではありません。『もう一度会いたいお坊さん』を選ぶイベントなんです」

 

そう話すのは、実行委員長を務める小池陽人さん(真言宗須磨寺派・須磨寺副住職)。大会当日、会場は満席。400枚のチケットは2日で売り切れたという。

 

「とっても聞きやすくて、面白かったわ!」と参加者の絶賛を受け、グランプリに輝いたのは、曹洞宗・長楽寺(兵庫県)住職の安達瑞樹さん(44)。安達さんは、大学時代から落語研究会に所属していたこともあり、落語調の法話で会場の心をつかんだ。そんな今大会のグランプリを受賞した法話を紹介。

 

■「スズムシを見つめる少年が、命の尊さを教えてくれた」安達瑞樹さん

 

私は以前、ひとりで寺に住んでおりました。あるとき、隣のおばあさんが、「ひとりやったら、さびしいやろ」と、スズムシを30匹ほどくれたんです。

 

10月になったら、30匹いたスズムシが、1匹ずつ減ってきました。メスが産卵に備えて栄養をつけるために、オスを食べるからです。どこの世界も女性は強いんですな。

 

(一同爆笑)

 

途中からメスだけになりました。産卵が終わったメスを、また違うメスが食べるんです。

 

「死骸が転がってるけど、どうしたらええですか」

 

おばあさんに相談しました。

 

「うーん、そうやな。とりあえず、般若心経でも唱えとこか」

 

それで、唱えてあげました。

 

「翌年の八十八夜。5月2日になったら、明るいところに卵を出して表面にさっと水をまくと卵がかえるんや」

 

そうおばあさんに聞きまして、翌年の5月2日、水をかけました。1カ月半ほどしたら、白い小さいものがうじゃうじゃ……。

 

ちょうど隣の小学生が遊びに来たんで、箱に分けて持って帰ってもらいました。「夏休みの自由研究を“スズムシの一生”にします」と言うから、私も1回しか育ててないけど、教えてやりました。

 

「8月の終わりから鳴きだして、10月くらいからメスが産卵のためにオスを食べるんや」

 

子どもはメモをとっています。

 

「どこの世界でも女性は強いんや」

 

(メモ)どこの世界も女性は強い。

 

「それは書かんでええ!」

 

(一同爆笑)

 

「みんな死んでしもたら、般若心経をあげるんや」

 

(メモ)みんな死んだら般若心経をあげる。

 

「よしよし、それは書いとき」

 

スズムシが鳴くくらいのころになって子どもたちがまた来ました。

 

「僕、夏休みの宿題、小学校で賞をもろたんや」

 

見るとノートには、こう書いてありました。

 

産卵の時期になると、メスがオスを食べる。どこの世界も女性は強い。みんな死んだら般若心経をあげる。

 

でも、彼の宿題のいちばんいいところは、最後のまとめにございました。

 

スズムシは、こうやって命をつないでいるんです。

 

私はそんなこと言うてません。彼が考えたんです。

 

私たちは、大切な人を亡くしたとき、命の尊さやはかなさを考えます。でも、彼のように、ふだんの何げない生活から、命について考えることが大事やないでしょうか。そんな時間をつくっていただきますと、みなさまの笑顔につながるのではないかと思います。

 

(一同拍手)

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