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放漫経営がはびこり、全国で97%強の公立病院が赤字となるなかでも、黒字化を遂げる公立病院がある。そんな病院の経営努力は私たち利用者にもメリットがあるようでーー。

 

先月、厚労省が再編。統合の検討が必要な全国424の公立・公的病院を実名公表し、波紋が広がっている。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが解説する。

 

「リストに挙がった病院の近隣に住む人たちの不安は広がり、病院からは実名公表は乱暴だと、反発の声も上がっているようです。確かに不採算であっても周産期、救急、小児、僻地医療などを守るのは公立病院の使命です。一方で、赤字が出ても税金で黒字化されるからという“甘え体質”があることも否めません」

 

では、赤字の公立病院はどれだけあるのか。ウェブサイト「病院情報局」が発表する、公立病院が医業収益だけでどれだけ自立しているのかを示す「純医業収支ランキング」によると、全国776の病院のうち、なんと赤字病院は756、合計赤字額は5,600億円を超える。

 

一方で、全体のわずか3%にも満たないが、黒字を達成している病院が20ある。

 

【1位】群馬県・公立七日市病院/収支率:7.00%、黒字額:1億2,500万円
【2位】岐阜県・大垣市民病院/収支率:5.60%、黒字額:18億1,900万円
【3位】新潟県・南部郷厚生病院/収支率:3.30%、黒字額:700万円
【4位】鹿児島県・垂水中央病院/収支率:3.10%、黒字額:6,400万円
【5位】岩手県・岩手県立中部病院/収支率:3.00%、黒字額:3億5,500万円
【6位】鹿児島県・霧島市立医師会医療センター/収支率:2.70%、黒字額:1億3,500万円
【7位】愛知県・春日井市民病院/収支率:2.20%、黒字額:3億4,200万円
【8位】岐阜県・美濃市立美濃病院/収支率:2.10%、黒字額:5,200万円
【9位】愛媛県・宇和島市立津島病院/収支率:2.00%、黒字額:2,400万円
【10位】大分県・大分県立病院/収支率:1.80%、黒字額:2億8,600万円
【11位】京都府・京都中部総合医療センター/収支率:1.50%、黒字額:1億5,000万円
【12位】群馬県・公立富岡総合病院/収支率:1.30%、黒字額:1億1,700万円
【13位】石川県・公立羽咋病院/収支率:1.30%、黒字額:4,200万円
【14位】三重県・松阪市民病院/収支率:1.20%、黒字額:1億1,300万円
【15位】山口県・光市立大和総合病院/収支率:0.80%、黒字額:1,800万円
【16位】岡山県・備前市国民健康保険市立吉永病院/収支率:0.70%、黒字額:1,200万円
【17位】三重県・市立四日市病院/収支率:0.60%、黒字額:1億1,700万円
【18位】滋賀県・近江八幡市立総合医療センター/収支率:0.60%、黒字額:6,700万円
【19位】群馬県・伊勢崎市民病院/収支率:0.10%、黒字額:700万円
【20位】岩手県・岩手県立中央病院/収支率:0.00%、黒字額:600万円

 

そこで、今回、赤字経営が常態化する公立病院のなかで、業績を回復させる病院の秘密に迫った。

 

ランキング入りした富岡地域医療企業団が擁する公立富岡総合病院と公立七日市病院は、経営努力により黒字化を達している。

 

「現場の事情を反映した効率性の高い、柔軟な経営を行うため、平成30年より、経営と医療現場のどちらにも精通した者をトップに据えて、経営を見直しました」

 

こう語るのは、公立富岡総合病院の事務部長・新井良一さんだ。

 

「診療費の改定は2年ごとに行われ、非常に複雑なため、これまで請求漏れなど取りこぼしがありました。そこで、事務と医療現場の連携を深め、適正な請求ができるようにしております」

 

医療機材の購入に関しても。

 

「相見積もりを取り、価格交渉しています。ときには、『安すぎる』と業者が私のところまで不満を漏らしに来ることもあるほどです」

 

ほんの3キロほど離れた両病院ならではの連携も功を奏している。

 

「それぞれの病院で異なっていた白衣を統一し、一括リースすることで、コストを抑制しました。医薬品や診療材料なども、両病院でまとめて購入しています。また、安全を確保しつつ、後発医薬品への切り替え、診療材料の見直しなども進めています。さらに、簡易的なものを除き、検体検査は富岡総合病院で行い、検査装置や技師を集約しました。一方で、結果のやり取りはパソコンで行うため、検査時間は今までとほとんど変わりません」

 

経営が改善し黒字化されると、精度の高い最新医療機材の購入など、市への申請がしやすくなる。

 

「平成29年度には、PET-CT装置の導入で、がんの早期発見から治療までの万全なフォローアップ態勢を整えました。今年度もCTを上位機種に更新。血液浄化室の近くにも人工透析患者専用の駐車場を整備し、利用者の移動の負担が減るようにしています」

 

平成29年度、18億円もの黒字化に成功しているのは大垣市民病院。経営アドバイザーを務める千葉大学医学部附属病院副病院長の井上貴裕さんは、黒字化の要因に高い生産性を挙げる。

 

「病院は収入に対する人件費率が55%を超えると、赤字になりやすいといわれていますが“大垣”の場合、人件費率は約40%と低い。では、給料が安いのか、というとそうでもなく、職員を適切に配置することで、医療の質を保ちながら、医師や看護師1人が受け持つ患者数を多くして、高い生産性を維持しているのです」

 

さらに、ベッドの回転率を上げる努力も行っているという。

 

「病気ごとの平均在院日数までに、70%の患者さんが退院できることを意識して、新規患者を受け入れる態勢にしています」

 

無駄な入院がなくなったことで、救急搬送をより受け入れられるように。また、入院期間の短縮、差額ベッド代などの節約といった形でも患者に還元されている。井上さんは、経営参加している市立札幌病院でも累計赤字を10億円も減らしている。

 

「公立でも、十分に経営努力できる余地はあるのです」

 

患者にもメリットのある公立病院の経営努力。赤字病院にもぜひ、経営にメスを入れてもらいたい。

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