「高齢者の8割の方が65歳を超えても働きたいと願っておられます。働く意欲のあるみなさんに、70歳までの就業機会を確保します。こうした働き方の変化を中心に据えながら、年金、医療、介護全般にわたる改革を進めます」
1月20日、通常国会が召集され、衆院本会議での施政方針演説で、安倍晋三首相は「全世代型社会保障」についてこう宣言した。同日にスタートした厚生労働省の社会保障審議会などで、「介護保険制度の改正」に向けた議論がされる見通しだ。
国の財政に詳しい経済評論家の加谷珪一さんは、次のように話す。
「2年後の’22年、団塊世代が“後期高齢者(75歳以上)”になり始めます。’18年の出生数が過去最低の『91万8,000人』になるなど、超少子高齢社会が進むなか、政府は国民の自己負担を増やそうと考えているのです。安倍首相は施政方針演説で、『介護』の分野の『改革を進める』と発言しました。じつは厚労省の社会保障審議会で、昨年から『介護保険制度の改正』の具体案が着々と練られているんですが、内容は一様に『国民、とくに高齢者の負担増』の方向で審議が進められているんです」
“改革”の具体的な中身について、介護や医療などの保険制度に詳しい社会保険労務士の石田周平さんが解説する。
「まず挙げられるのは、介護保険の自己負担上限額の引き上げです。国は一定額を超える支払額に対して『自己負担の上限額』を設けており、それを上回った分を還付する『高額介護サービス費の負担上限』制度を採用しています」
これは、介護保険の自己負担額が、一定の上限額を超えた場合、差額分が返金される制度。世帯の属性によって負担上限額が異なる。ひとつの基準は、住民税が課税される世帯か否かだ。
サラリーマンの男性が妻と高齢の母を扶養している場合、年収約205万円を超えれば、住民税が課税されることになる。
妻を扶養している65歳以上の年金生活者の男性の場合であれば、年金収入が東京23区や大阪市などの大都市圏だと211万円超、地方の県庁所在地だと約201万円超、地方の中小自治体だと約192万円超で、住民税が課税される。
現行では住民税が課税されている人が世帯にいると、負担上限額は4万4,400円でこれを超える費用を払った場合、差額分は返金される。
反対に、住民税非課税世帯は2万4,600円。さらに年金収入などが80万円以下などの低所得者であれば、上限額は1万5,000円となる。
もうひとつの基準が、“現役並みの所得者”がその世帯にいるかどうかだ。65歳以上で課税所得145万円以上(年収383万円以上)の現役並み所得者がいる世帯は、住民税課税世帯と同様に、上限額は4万4,000円だ。
「政府は“現役並み所得者がいる世帯”の上限額を引き上げようとしているんです」
医療費の自己負担上限額を定める「高額療養費制度」では、年収によって負担上限額が細かく定められているのだが、介護費の負担上限額もこれに倣う見込みだ。
「現役並み所得者がいる世帯の年収770万円超の場合、上限額は月9万3,000円に、さらに年収1,160万円超の場合は月14万100円と、2~3倍超の上限引き上げとなってしまいます」
上限額の引き上げは2021年度には導入される見通しだ。高所得世帯には大きな痛手となる。介護保険の自己負担率は、所得に応じて、1~3割の幅がある。“現役並み所得者”の場合は3割負担だ。
「1~3割の負担割合で利用できる介護サービスの金額は、要介護度によって決まっています。もっとも重い要介護5の場合で、利用限度額はおよそ35万円。3割負担であれば、本来の負担額は10万5,000円となるが、高額介護サービス費の負担上限制度があるので、いまは4万4,400円を超える金額を負担する必要はありません」
しかし、上限額が引き上げられた場合、仮にこの世帯の年収が770万円超~1,160万円の間ならば、負担額は上限額いっぱいの9万3,000円になってしまう。月4万8,600円、年間で58万3,200円も負担額が増えることになるのだ。
「女性自身」2020年2月11日号 掲載