世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。感染者数のみならず、その発生源を巡っても混乱が巻き起こっている。アメリカのトランプ大統領(73)は「発生源が武漢であるという“決定的な証拠”がある」と主張。否定する中国側と真っ向から対立している形だ。
そんななか、「新型コロナ出現を予言していた?」とネット上で囁かれている小説があるのをご存じだろうか。アメリカのベストセラー作家、ディーン・R・クーンツの『闇の眼』だ。
同書で注目されているのは、“研究所から殺人ウイルスが持ち出される”という内容。原著は1981年に刊行され、90年に光文社文庫で刊行された。その際、ウイルスはソ連からアメリカに来たことになっていた。だが96年の改訂版では、中国・武漢から持ち出されたウイルスに変更して描かれていたのだ。
長らく入手困難となっていたが、このほど改訂版に従い翻訳を全面的に修正した文庫が再び書店に並ぶこととなった。光文社文庫の小口稔編集長はこう語る。
「クーンツといえば、1980年代からスティーブン・キングらと『モダンホラー・ブーム』を巻き起こした大ベストセラー作家です。本書の内容は一人息子を亡くした母親の周辺に奇妙なことが起こり、恋人とともにその真実を探っていくというスピード感あふれた典型的モダンホラー。その物語の背景に、武漢からきたというウイルスがありました。読み始めたら、一気にクーンツの世界観に引き込まれると思います」
読んでみると、たしかに物語の終盤で「武漢四百」と名付けられたウイルスが出てくる。もちろんその性質は、今回の新型コロナウイルスとはまったく違う。描かれているのは“感染したら致死率100パーセント”という殺人ウイルスだ。その上で、小口編集長は同書についてこう語る。
「ウイルスの由来をなぜソ連から中国に変えたのか。その理由は、はっきりとはわかりません。ただあえて改定していることからも、当時からクーンツが武漢という中国の都市に注目していたといえるのではないでしょうか。もちろんフィクションですし、ことの真相を問うような作品ではありません。『ベストセラー小説の書き方』という名著もあるクーンツの作家としての目の付けどころ、そして圧倒的な物語のおもしろさを味わっていただければと思います」