かねてから指摘されてきた国民年金と厚生年金の“格差”。いま両者の統合案が政府内で出ているのだが、それが招くものはーー。
「年金財政を延命させるため、6月に年金制度改正法が公布されたばかり。しかし、早くも’25年に予定されている次の年金改正に向け、厚生年金と国民年金の積立金統合案が持ち上がっています。会社員などの年金受給額が減額する可能性もあるため、大きな議論となるでしょう」(経済誌記者)
将来の年金給付の財源として積み立てられてきた「年金積立金」。サラリーマンや公務員などの給与所得者を対象にした厚生年金と、自営業者やパート従業員などを対象にした国民年金で、別々に計上されている。
厚生年金の被保険者は約3,980万人、積立金は国家予算の1.5倍にあたる157兆円超にのぼる。一方、国民年金のみに加入している自営業者などは1,462万人。積立金は9兆円にとどまる。経済評論家の平野和之さんはこう語る。
「厚生年金は収入に応じて保険料が上がりますが、国民年金は一律約1万6,000円。さらに、“将来、もらえないんじゃないか”という年金不信も広がっていて、未納率も3割を超えています」
昨年8月に発表された「財政検証」で、国民年金の厳しい状況が浮き彫りになった。
「財政検証とは、厚生労働省が5年に1度行う、年金財政の健康診断のようなもの。将来、現役世代の男性の平均手取り収入額に対して、モデル世帯の夫婦の年金給付額がどのくらいの割合になるのかを示した“所得代替率”の未来予測が検証されています」(平野さん)
現在の現役男子の平均手取り額は35万7,000円とされている。厚生年金に40年間加入していた夫と、専業主婦の妻というのがモデル世帯。現在の所得代替率は61.7%で、夫婦の年金額はおよそ22万円となっている。
しかし、国民年金加入者が受け取れる基礎年金に限れば、現在でも所得代替率はわずか36.4%、夫婦で約13万円に過ぎない。
「財政検証では、経済成長率、物価上昇率などを加味して6つのシナリオが示されています。もっとも平均的なケースでも、’40年度の基礎年金の所得代替率は29%になる見込みです。現在の平均手取り額から試算すると、国民年金のみを受給している夫婦は、わずか月額10万3,500円で生活しないといけない」
しかも、これは夫婦ともに40年間保険料を欠かさずに払い続けた場合の給付額。未納期間があれば、この金額には届かない。
「このまま国民年金の給付額が下がり続けた場合、とても生活は成り立ちません。余裕のある厚生年金の財源に頼らざるを得ないというわけです。当然、厚生年金加入者からは、『なんで厚生年金の積立金で、未納者もいる国民年金も支えないといけないのだ!』という反対の声が上がることが予想されます」
厚生年金と国民年金の積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、株式や債券で運用している。年金博士として知られる、社会保険労務士の北村庄吾さんはこう指摘する。
「新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の落ち込みは、積立金に大きな影響を与えます。さらに、国民年金と統合されることで、厚生年金の積立金の計画は大きく狂ってしまうことになるでしょう」
厚生年金はどの程度の影響を受けるのか。平野さんが注目するのは、財政検証で示された最悪のケースだ。
「このケースだと、’52年度に積立金が枯渇すると予想されていますが、統合などによって、時期はさらに10年、15年と早まる可能性がある。そうなれば、現在の50代も無関係ではいられません。積立金が使い果たされた場合、厚生年金の所得代替率は36~38%まで落ち込むと試算されています。現在の平均手取り額から計算すると、将来の厚生年金の受給額はわずか月額13万5,000円。現状の22万円よりも、8万5,000円も減額されてしまうことになります」
「女性自身」2020年7月14日号 掲載