日本学術会議が出す提言や要望には強制力はない。受け入れるかどうかは政治の選択だ。

 

「たとえば、学術会議は選択的夫婦別姓を含む民法改正への提言を発出しました。選択的夫婦別姓は、民主党政権で福島瑞穂さんが男女共同参画担当大臣になったときに実現できるのではないかという機運が高まりました。これは法律を変えたら済む話で、予算措置は0円ですから、やる気さえあればすぐにできるんです。しかし、福島さんは普天間基地移設問題で、閣内不一致で政権を離脱しました。結局、今に至るまで選択的夫婦別姓は実現していません」

 

一方、日本学術会議が行った要望や提言が社会に大きく変える例もある。近年では、たばこ規制に関するものが象徴的な例だという。たとえば2008年3月、職場や公共機関での分煙、たばこの販売方法の規制などを盛り込んだ「脱タバコ社会の実現に向けて」という「要望」を日本学術会議は政府に提出した。「要望」は「政府及び関係機関等に実現を望む意思表示」として「勧告」よりも強い位置づけになっている。

 

「発がん性リスクや医療費コストなど、さまざまなデータを積み上げて根拠にした完璧な“要望”でした。もちろん、喫煙者の多い政治家側からは抵抗もありましたが、明確なエビデンスで示されれば、文句のつけようもない。日本学術会議が過去に行ってきたもののなかでも、もっとも影響力があったもののひとつでしょう」

 

日本学術会議の要望は法律や政策に取り入れられ、現在の分煙社会ができあがった。こうして、非喫煙者や未成年者は大きな恩恵を受けたのだ。

 

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