「性に関する社会問題にかなり注目が集まっていて、それはとてもいいことだと思います。ただ、男性の場合、どこに問題があって、それの何が問題なのかがわからないということが多い印象があります。社会全体が変わっていくなかで、自分にできることを考えたときに、関心のない男性にもわかる言葉やなぜ問題なのかを論じる本が必要かという問題意識からこの本を書きました」
こう語るのは12月15日に『知らないと恥をかく「性」の新常識』(光文社新書)を上梓した東京大学大学院在学中の齋藤賢氏。齋藤氏が語ったように昨今、性に関する問題への社会的な関心が高まっている。
そのなかでも注目を集めている一つが“性的同意”。性的同意とは“性行為を行う際に同意を取ること”。しかし、現実世界では元慶応大学生の渡邉陽太容疑者が強制性交などのわいせつ関連で6度も逮捕された事件など、“同意なき性交”による被害は後を絶たない。
身近な女性が性暴力の被害に遭ったことをきっかけに、性的同意の啓発といった性に関する問題についての活動を始めたという齋藤氏。性的同意への関心が高まる背景にも、横行する性暴力への憤りがあるのではないかと同氏はいう。
「一緒に活動している大学生などは、問題意識を持つきっかけとして伊藤詩織さんが性行為を強要された事件や、性暴力の事件に対して立て続けに無罪判決が出たことを挙げる人が多いです。
性的同意の啓発は、基本的に大学を中心に広まりました。2010年代末ころから、性的同意の啓発を目的に掲げる大学サークルが次々と誕生。18年には『ちゃぶ台返し女子アクション』や『ウイングス京都』といった団体がハンドブックを作成しています。こうした活動がNHKでも取り上げられたりしたことで、徐々に若い世代に広まっていった印象です」
前述した伊藤詩織さんの事件や、先日も就職活動のOB訪問用アプリを悪用し、就活中の女子大生に睡眠薬を飲ませて乱暴した疑いでリクルートコミュニケーションズの男性社員が逮捕されたばかりだ。
上記の事件は飲酒による酩酊状態や仕事などでの上下関係といった、正しい性的同意を取ることのできない状況で行われた性暴力だった。齋藤氏によれば、こうした性暴力事件に限らず、正しい性的同意を取ることができない環境で女性が望まない性行為を強いられるケースは少なくないという。
「当然ですが、かたちの上では『同意をとった』ように見えても、無理やり『はい』と言わせていたなら、正しく同意がとれているとは言えないです。簡単には抜け出せない部屋やホテルでは、男性側が『同意しないと、さもないと』と匂わせるだけで拒否しにくくなりますよね。上下関係も圧力を生み出しやすいので、上に立つ側が気を付けるべき。上に立つ側が対等であると思っていても、向こうは“断ると仕事が貰えなくなるのではないか”など不安に思ってしまうわけです。
大切なのは相手が健全な判断をできるかどうか。例えば、酩酊していてぐでんぐでんの状態では、合意なんて取れないですよね。薬品を使って相手の意識を奪って襲うというのは論外ですが、お酒もひどくなると薬物と同じことですよね。飲酒したあとに性交に及ぶことはあると思いますが、その際にもきちんと相手の意思を確認する必要があるでしょう」
時おり、巷では「自分の家にきたからOK」「いい雰囲気だったから向こうもその気のはず」といった“ムード”を性的同意と捉える言説を見かけることも。しかし、どんなに“いいムード”であったとしても、性的同意を口に出して確認することが肝要だと齋藤氏はいう。
「セックスする前にムードを高めることは大切ですが、いくらムードが高まったとはいえ、相手がセックスを望んでいるとは限らない。“家にいったからOK”というものでもないです。手を繋いだからといったことだけではわからないので、最後にきちんと一言、確認を行えばいいのです。
基本的には同意とは、“主体”つまり相手の意思の尊重です。重要なのは社会的な地位や暴力的な行為を使って脅したりすることではなく、男女にかかわらず、最初に性行為を望んだ側がきちんと相手にその意思を言葉にして伝えることが大切なんです」