状況は回復しているというのだが、なぜ現場の医療関係者たちは不安を覚えているのだろうか?
昨年、医薬品メーカーにより出荷調整が公表された薬品のなかには、高血圧治療薬や認知症治療薬などもあった。その後、出荷調整が解除されたものもあったが、いまだ継続中という薬品も残っているのだ。東京都内にある大学病院の薬剤部関係者はこう語る。
「原薬不足による供給停止は減少しているようですが、’20年は薬品のリコール(回収)が急増し、それも痛手となりました。それぞれの企業の内部事情はこちらにはわからないのですが、コロナ禍の影響でマンパワーが不足しているなど、製造ラインがうまく機能していないのではないかという印象は受けています」
このリコール問題について、浅草薬剤師会理事を務める田中雪葉さんは、
「“出荷調整中”とされる薬も多く、現場は“大変”の一言につきます。原薬が不足している以外にも、最近では製造過誤による回収も起こっています」
現場での情報は入り乱れているようだ。たとえば、ビタミンB2を補給するフラビタン錠は、原薬製造会社が業務改善命令の行政処分を受けた影響で出荷調整が続いているが、薬局のHPによっては、“コロナの影響により”と説明されていた。
「吸入薬のオルベスコのように、“コロナに有効”という情報が流れたことで、一部の医療機関が在庫を保持してしまい、本来使用していた、ぜんそくの患者さんのもとに回らなくなってしまったというケースもあります。また1つの製品が回収されてしまったあおりで、品薄になってしまうこともあります。
いまはお子さんが風邪をひいても、コロナ感染を防ぐために、市販の薬で対処しようという親御さんも増えているのです。ある会社の子供用シロップが回収されてしまったのですが、別の会社のシロップの供給が追いついていないという状況も起こっています」(前出・田中さん)
またNPO法人「医療ガバナンス研究所」理事長の上昌広さんは、
「コロナ禍のせいで世界的に薬剤の供給が滞っている状況はいまも続いています。日本でもふだんでは考えられないようなリコールが続いているのも、コロナ禍の影響と言えるでしょう」
さらに今後の“薬品流通全体に関わる不安材料”もあるという。前出の有識者会議メンバーの日本薬業貿易協会の藤川会長によれば、
「薬品に関する物流は改善していますが、今年3月以降にコロナワクチンの輸送が始まれば、マイナス70度という温度管理が必要となります。そのため薬品輸送に使用していた冷蔵コンテナが不足してしまう可能性もあり、物流のスケジュール調整もかなりタイトになるでしょう」
そして前出の坂巻教授もこう語る。
「感染力が1.7倍という変異種の感染者が日本でも確認されました。これからいつ世界のどこがロックダウンするかは予測できません。昨年4月ごろのように、一気に薬品の物流が止まってしまう危険性もあるのです」
“いつものお薬はお出しできません”、そんな言葉にも慌てないように、持病薬や常用薬のストックを常に確認するとともに、代替薬のリサーチも進めておきたい。
「女性自身」2021年1月19日・26日合併号 掲載