憲法学者・木村草太「コロナ対応に緊急事態条項いらない理由」
画像を見る 条項の内容によっては、政府は政令に基づいて合法的に情報統制できる

 

■感染拡大中の“GoTo強行”“お肉券”は要りますか?

 

さらに、こんな懸念もある。

 

「条項の内容によっては、政府は政令に基づいて合法的に情報統制できます。メディアにコロナ情報が載らなくなり、感染者数が虚偽発表、政府に不都合な情報が合法的に隠蔽されかねません。さらに、今は国民はメディアやSNSを通じて意見を言うことができますが、国民の声が封殺されるようになる恐れがあります」

 

10万円の一律給付やGoToキャンペーン停止など、生活の窮地を救い、感染拡大を防いだと思われる施策には、国民からの突き上げや、国会での野党との議論を経て実現してきたものが多い。

 

当初、自民党内では“お肉券やお魚券”が検討され、政府は感染拡大下でキャンペーンを続行しようとしていたが、国民の批判が封殺され、政府の独断が許されれば、これらが実現してしまった可能性もあった。

 

 

■「ピンチはチャンス」と言い放った自民党政調会長

 

ドイツのナチス政権からミャンマーの軍事政権まで、緊急事態時に、権力の集中や民主主義的な手続きの停止を許す憲法規定が悪用され、独裁政権が生まれた例は歴史上に多々ある。緊急事態条項には慎重に臨まなければならない。

 

「コロナ対応に必要なのは、感染症を理解し、対策目標を国民に示し、医療従事者の援助を行い、休業せざるを得ない事業者への支援をするという当たり前の政策です。これはむしろ、適切に情報を開示し、困っている人の声を取り上げて、民主的な討論を経て政策や法律を決めるという、現行憲法の基本原則にのっとってこそ、実現できる性質のものでしょう」

 

自民党の下村博文政調会長(66)は5月3日に行われた改憲派の民間団体の集会で、憲法改正のために「コロナをピンチはチャンスとして捉えるべきだ」と言い放った。自分たちが招いたピンチを憲法のせいにして、強権的な支配を可能にする条項を憲法に紛れ込ませようなどという卑怯を許してはならない。

 

「女性自身」2021年5月25日号 掲載

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