■すでに“闇日雇い派遣”は常態化していた
’12年に禁止される以前、日雇い派遣で働いた経験がある看護師のAさんは、こんな体験を吐露する。
「高齢者が多く入院している療養型病院に日雇い派遣されました。夜中に、ご高齢の患者さんの汚れたオムツを替えようとしたら、『今は交換の時間じゃないんだから、よけいなことをするな!』と、ほかの看護師に叱られて。オムツを汚れたまま放置しておくと、褥瘡(かぶれ)ができるので、すぐに交換するのが看護の常識。でも、恒常的に看護師が足りないこの施設ではそれをないがしろにしていたんです」
前出の佐々木さんは、こう語る。
「看護師の数を増やして過重労働を改善し、働きやすい環境を作らないと、医療現場の疲弊も解消されないし、離職者も減りません。なのに、政府は離職した潜在看護師を日雇い派遣すれば、人手不足が解消すると思い込んでいます」
さらに、派遣で働く看護師に取材を重ねると、意外な事実も。看護師のBさんは告白する。
「じつは、解禁になる前から、日雇いのような形で働いている看護師はたくさんいました。私も毎回、異なる施設に派遣されていたので、実質“日雇い”でしたね」
Bさんは、「31日以上勤務する」という契約を派遣会社と結んでいたので、外形的には“日雇い派遣”にあたらなかった。だが、実際にBさんが勤務したのは月に1回程度、年間でも31日に満たない。
「こういう働き方をしていた人は多かったみたい。ある施設の利用者のご家族は、『ここ来るたびに看護師が替わっているから不安だわ』と漏らしていました」
労働問題に詳しい東京法律事務所の平井康太弁護士が説明する。
「Bさんのように、労働契約を31日以上として契約し、実際に派遣する日は少なくするということも前からあったといわれています。日雇い派遣が解禁される前の脱法的手段といっていいでしょう」
以前から介護・福祉施設での“日雇い”は常態化していたのだ。
「だから、介護施設の日雇いを解禁したところで、看護師不足は改善しないと思います」(Bさん)
多くの医療関係者は、狙いは別にあると考えている。
「今年4月、へき地に限り看護師の派遣労働も解禁されました。さまざまな規制をなし崩し的に解禁していき、最終的にすべての医療機関で看護師の日雇い派遣を可能にすることが目的だと思っています。連携のない看護が当たり前になれば、置き去りにされるのは患者さんです」(佐々木さん)
実際に、今年4月、規制改革推進会議の会合で、ある委員はこう発言している。
「(看護師派遣の解禁は)少し限定的なところから入っていかないと、全面的にやると(反対されて)一歩も引き下がらないということになりかねない。非常に狭いところから攻めていくのがポイント」
医療現場で“置き去り”にされないため、規制解禁を注視しよう。