■闘いぬいて、お空にのぼっていった翔平ちゃん
病院に駆けつけた家族たちが見たのは苦しそうな翔平ちゃんと、懸命に延命処置を続ける医師たちの姿だった。
この日のことを思い出したのか、涙で静葉さんの言葉もとぎれとぎれになる。
「そのころの翔平は、再びECMOを使っていました。水分をうまく排出することができず、体もパンパンにむくんでいるのが痛々しくて……。絶対に翔平の命をあきらめたくない。でも、これ以上、翔平につらい思いをさせ続けるのは本当に正しいことなのか……」
静葉さんが自問自答を繰り返しているうちに、主治医の坂口先生が、静かに声を発した。
「抱っこしてあげて」
ECMOをつけたままの抱っこなど、それまでは絶対に許されないことだった。先生のその言葉で、お別れのときが近づいていることを、病室の家族たちは悟ったのだ。
「声は届いているからね、いっぱい声をかけてあげて」、先生が教えてくれたとおりに静葉さんは翔平ちゃんを抱き上げて語りかけた。
「ありがとう翔平、ありがとう……」
お見舞いの日に大谷選手が言ってくれたように、その小さな体はあたたかだった。
「声をかけながら抱きしめているうちに、血圧はどんどん下がっていき、家族みんなが見守るなか、翔平はついに旅立っていきました。力いっぱい闘いぬいて、まるで眠っているような翔平の体から、ECMOの管や、たくさんの点滴のチューブが外されていきます。
生まれて初めてようやく身軽になった翔平に、私は心のなかでこんな言葉をかけました。
『もう、つらくてしんどい思いをしなくていいんだよ。おうちに帰ってゆっくり休もうね』と――」
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