日本のサラリーマンの平均賃金は30年前とほぼ同じ。一方、世界経済は成長し続け、日本の平均賃金はOECD(経済協力開発機構)の統計で35カ国中22位という低い水準となっている(2020年)。
現場の社員は、日々「生産性を上げろ」と経営陣に発破をかけられているが……。「もう十分に働いているのに」と、思っている人も少なくないはず。なぜ、こんなに働いているのに我々は豊かにならないのだろうか。
新型感染症が蔓延するなかでの金融危機を描いた『Disruptor 金融の破壊者』(光文社)などの経済小説を多数上梓している作家で、元銀行員の江上剛さんが日本の企業が抱える問題を斬る。
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「『日本は労働生産性が低い』って言われるでしょ? 私は、その責任が社員にあるとは思っていません」
江上さんはこう断言する。日本経済が成長していない理由として、労働生産性の低さが指摘されてきた。日本の労働生産性(2020年、日本生産性本部調べ)はOECD(経済協力開発機構)加盟の38カ国中で23位と、過去50年で最低の順位だという。
しかし、日本は「ものづくりの国」として世界から技術を信頼され、その勤勉さが評価されてきたはずだ。
「日本は中小企業が多いから労働生産性が低いと、そんな理屈をこねる向きもあります。しかし、私は銀行員時代からさまざまな企業をみてきましたが、社長も従業員も、一途に、勤勉に仕事に取り組んでいる中小企業はたくさんある。いちばんの責任は大企業の経営陣にあります」
日本の雇用の7割を中小企業が支えている。中小企業は、大企業から直接、あるいは他の中小企業を通じて間接的に大企業の仕事を受注している場合が多い。原材料費が高騰したり、大企業の業績が悪化したとき、“コストカット”の名のもとに真っ先に割を食うのが中小企業だ。
「『コストカット30%』とクライアントにいわれれば、言いなりにならざるをえません。すでに下請側もギリギリですから、削れるのは人件費くらい。給与を安くしたり、正社員数を減らしたりして対応することになる。それが二次、三次下請けに波及していく。そんな悲惨な中小企業の状況を生み出しているのは、大企業であり、その経営者に責任があるといっていいでしょう」
「労働生産性」は、労働時間や従業員数など投入した労働量に対して、どれだけ付加価値を生み出したかで決まる。大企業の都合による“コストカット”が繰り返されれば、下請の中小企業は生産性の向上など望めないだろう。