女の体は祝福されていると思った ストリッパーデビューの書店員語る舞台の魅力
画像を見る 10月31日まで「池袋ミカド劇場」出演中。11月には「シアター上野」出演予定だ

 

■自分の中にある声に耳を傾けることが大事。好きなこと、楽しいことは全部やっちゃえ!

 

「久々に桜木さんが上京してくるのよ。見枝香ちゃん、内緒で、あなたがストリップの舞台に立って、驚かせてみない?」

 

20年1月。相田さんからの思いがけない誘いを、軽い気持ちで受け入れた新井さんだった。

 

「最初は、ただ桜木さんをびっくりさせたいという下心だけ。でも実際にステージに立ってみて、自分の身一つが動くたびに視線が集まるのが、純粋に心地よかったんです。自然に涙も流れていました。客席に、リボンを投げ入れる伝説の“リボンさん”という70代の男性がいるんです。気づいたら、舞台の私のまわりでもリボンがハラハラと舞っていて。ああ、これは祝福されているんだと。その客席も含めて、照明さん、音響さんらスタッフ、そして私たち踊り子も、みんなで力を合わせて最高の舞台を作り上げようとしている、その一体感に感動して。そして、ふと思ったんです。私は“こっち側”の人かなって」

 

ステージを見守っていた相田さんにも確信があったのだろう。

 

「踊り子になったら?」
「はい」

 

迷いなく答える新井さん。早くも、翌2月には福井県のあわらミュージック劇場にてストリップ・デビューを果たしていた。39歳だった。

 

こうして三足目のわらじ生活となったが、書店員としては、19年4月に三省堂書店を退職して、翌月から女性のための書店をコンセプトにしていたHMV&BOOKS日比谷コテージ店で勤務していた。同店の店長で、やはりカリスマ書店員の花田菜々子さんにスカウトされての転職だった。

 

「ストリップの話があって、まず花田さんに相談したら、『おもしろいじゃん』と」

 

職場の快諾を得たのはよしとして、素朴な疑問だが、そもそも人前で裸になることに恥ずかしさはなかったのだろうか。

 

「いやいや、脱ぐよりも恥ずかしいことって、日常のなかにもあるじゃないですか。自分のかかとのカサカサを見られることとか(笑)。年齢についても、意識したことないです。ていうか、あれ、私、今何歳だっけ!? って、よく思ったりします」

 

以降、シアター上野をホームシアターとして、静岡県の熱海銀座劇場や神奈川県の大和ミュージック劇場など、衣装を詰めた鞄を抱え地方も巡る生活が続く。

 

「10日って長さが絶妙です。私、人間に興味なくて、人付き合いもうまくないんですけど、とにかくその10日間をみんなでやり切ると、毎回最後は、終わる喜びと、終わっちゃう寂しさがあって」

 

一人暮らしを始めて8年目。今は、福井県のあわらミュージック出演中に出合った保護猫と暮らす。

 

「結婚? したいと思ったこと、ないんですよね。そもそも一人でいて、寂しいと思ったことがない。それに結婚したいより、まず好きな人が先でしょう、と思っちゃう。だから、あっ、私のお相手はクロネコだったんだと思いました、人じゃなくて(笑)」

 

カリスマ書店員、三足のわらじ、異才などと、この記事でも書き連ねてきた華麗なキャリアだが、本人はいたって気負いなく、どこまでも自然体だ。

 

「すべて流れに任せてます。ああ本屋さん、ああストリップ、ああネコが来た、もうサイコーという、その感覚ですね。自分の中の声に耳を傾けることは、すごく大事にしてます。なので楽しいことは全部やっちゃえで、人から見たら世の中ナメてると見えるかもしれませんが、結局は個人の責任。いつどこで野垂れ死のうが、知ったこっちゃないじゃないですか。誰かが面倒見てくれるわけでもない。だったら、好きなように生きたいと思うんです」

 

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