岸田文雄首相は防衛費などの関連予算を今後5年で倍増し、27年度には国内総生産(GDP)比2%以上にするよう関係閣僚に指示を出した。2022年度の防衛費は約5.4兆円でGDP比1%ほどだが、これを2%に増やすとなると11兆円になる。軍事評論家の田岡俊次さんが語る。
「今年4月に発表された『世界の軍事費』(ストックホルム国際平和研究所)によれば、2021年の日本の防衛費は世界9位でした。11兆円に倍増させると、日本は一気にアメリカ、中国に次ぐ3位に。平和憲法を掲げながらも、実質的に軍事的列強国の一国となるのです」
そもそも防衛費を倍増すれば日本の防衛力は高まるのだろうか。田岡さんは「巨費を投じても効果は乏しい」と指摘する。
「政府は、敵のミサイル発射を阻む『敵基地攻撃能力』の必要性を訴えていますが、実効性はありません。北朝鮮のミサイルは移動式発射機に載せてトンネルに隠し、出てきて即時発射できる。敵の位置がわからないと、こちらは攻撃できません。たとえ兆候をつかんだとしても、単に訓練しているのか、日本を狙っているのか意図や方向を判断するのは困難。政府が慌てて攻撃したら“先制攻撃をした”と世界から非難される可能性もあります」
また5兆円の“使い道”にも疑問符がつくとこう続ける。
「今でも14645人が欠員となっている自衛隊では隊員の募集に苦労しています。2018年から一般の隊員の採用を18歳以上33歳未満にまで広げましたが、人員は一向に増えていません。予算を増やしたからといって、この問題が解決するとは限りません」
さらに、防衛費増額を主張する人たちの根拠になっている米中の台湾有事に日本が巻き込まれるリスクも低いという。
「中国と台湾の経済関係は極めて密接、相互依存で発展してきた。中国が台湾に攻め込めば自らの足を打つ結果に。台湾行政府の世論調査では、独立でも統一でもない『現状維持』を望む人が84・9%もいる。日本はそれを支持して、米中戦争の防止につとめるほうが安全保障と国益にかなうのです」