■そもそも強制執行は、個人に代わって国が行うことはできない
10年以上経っても、しばしば蒸し返される“損害賠償金踏み倒し疑惑”。判決が確定しても賠償金を払わないことは可能なのだろうか? そこで本誌は、レイ法律事務所の河西邦剛弁護士に解説してもらった(以下、カッコ内は河西弁護士)。
「まず、判決が確定した日から10年間で時効消滅するというのは、法律上間違いありません(現民法第169条)。判決の効力を延長させるのであれば、時効間際にもう一度裁判を起こしたり差押えをする必要があります。なので、10年間で時効消滅してしまうというのは間違いではありません。一般市民の感覚ですと、『判決があるのに支払わないのはおかしい』という風に思うでしょう。ですが、日本の法律はそうはなっていないのです」
それでは、判決にはどのような効力があるだろうか?
「強制執行として不動産などの差し押さえができます。例えば、ひろゆきさんが家を所有しているならば、競売にかけてその売却代金で債権回収をするといった方法です。他には、預貯金の差し押さえです。国内に本人名義の銀行口座を有していれば、差し押さえは可能です」
そもそも、強制執行は裁判を提起した原告(債権者)の任意であり、国に委託することはできないという。
「損害賠償を払わない者に対して、『判決があるのだから、強制執行は国がやるべき』といった発想もあるでしょう。しかし日本の法律では、個人に代わって国が執行するような仕組みになっていません。国が執行するということは、つまり、税金で手続きを行うということですよね。“個人の債権回収を税金で行うのはおかしい”といった考えが昔からあったのです」
一方で、特に2000年代当時は、被告(債務者)が“強制執行逃れ”しやすい状況にもあったといい、河西弁護士は「昔は銀行名だけでなく、支店名まで特定しないと現実的に差し押さえができなかったんです。今は銀行名だけでも手続きができるように変化しています。口座を調べるのにも手間がかかる上、その事務手数料といった費用も債権者が負担しなければなりません」と話す。