「4月12日、岸田文雄首相の肝いりで作られ、自らが座長を務める『新しい資本主義実現会議』で、勤続20年を超えた長期勤続者に行われている退職金の税制優遇措置を見直す考えが示されました」
そう語るのは生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんだ。老後の生活費や住宅ローンの一括返済など、人生設計に退職金を組み入れている人は多いだろう。
しかし、勤続20年超への税制優遇措置がなくなり、実質的な増税が行われた場合、そうした人生設計が狂ってしまう可能性がある。WEBメディアなどで税に関する情報を発信している、税理士の板山翔さんが解説する。
「退職金を一括で受け取るとき、勤続20年以下は1年あたり40万円の控除が、20年を超えたぶんは1年ごとに70万円の控除を受けられる仕組みになっています」
たとえば40年間、同じ会社に勤めた場合、控除できる額は2200万円になる。しかし、《勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある》(新しい資本主義実現本部事務局『三位一体労働市場改革の論点案』)として、見直しが提案されたのだ。
仮に、20年以降の増額がなくなった場合、控除される金額は1600万円に減ってしまうことになる。大卒、大企業の人の定年退職金の平均額はおよそ2600万円。
「この場合、現行のルールなら、所得税と住民税の合計は約30万4652円ですが、20年以降の優遇措置がなくなると、税額の合計は108万4522円となります。払わないといけない税金が約78万円も増えるのです」(板山さん)
政府は見直しの理由として“雇用の流動化”を挙げているが、柏木さんはこう指摘する。
「国の借金が1千兆円を超えると言われるなか、明確な財源を示さないまま『防衛費増額』や『異次元の少子化対策』を岸田政権は掲げています。さまざまな領域で、税を取れるだけ取ろうという意図も感じられます」