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昨今、迷惑行為の被害者がトラブルの一部始終を動画で撮影してSNSに投稿し、大きな話題となるケースが相次いでいる。6月だけでも3件の動画がSNSで話題となり、テレビのニュースで取り上げられるなど注目を集めている。

 

まず8日、東京・恵比寿の駅構内でモデルでプロポーカープレイヤーの“ななちゃら”こと實近菜那(23)が中年男性からベビーカーにわざと体当たりされ、ベビーカーを掴まれる被害に遭った動画をツイッターに投稿。動画を証拠として暴行罪で被害届を提出すると報告した。

 

12日に、YouTuber男性が、東武日光線・東武動物公園駅のホームで、たばこを吸っていた高齢の男性を注意したところ、「顔に根性焼きを入れられそうになった」としてトラブルの動画をツイッターで公開した。

 

19日には、自転車で子供を病院に連れて行こうとした女性が、狭い通路だったため歩行者の男性に対し注意喚起のため一度ベルを鳴らしたところ、男性に前カゴを捕まれた状態で大声で怒鳴られ続け、通行人に助けを求める動画をツイッターに投稿。しかし、“ベルを鳴らした方も悪い”と批判が殺到し、女性はその後Twitterのアカウントを削除した。

 

いずれの動画でも迷惑行為をしたとされる男性の顔にぼかしなどは入っておらず、公開されていた。

 

動画でことの一部始終を記録すること自体は、その後刑事事件として告発する際などに役立つこともあるようだが、被害者が加害者の顔を勝手にネットで公開することに法的な問題はないのだろうか。弁護士法人松本総合法律事務所代表の松本賢人弁護士に話を聞いた(以下、カッコ内は松本弁護士)。

 

「証拠にするために動画を撮影して自分で持っているだけで公開しないのと、SNSに掲載するというのは別の行為です。動画をSNSで公開して、映っている他の人たちの肖像権や名誉権などを侵害していれば、当然違法になるわけです。

 

秋葉原の連続殺人事件の犯行を撮影といったような、“現に犯罪をしてる人がここにいるよ、逃げて”みたいなことを拡散するという事には公共の目的がありますが、他方、動画の態様は多様で単なる個人間の言い争い等のSNS掲載にどれだけ公共の目的があるか疑問です。主として過剰な自衛目的や興味本位、仕返しなどの目的であれば、動画掲載の態様によっては違法になる余地はあると思います。」

 

それでは、動画で勝手に顔を晒された人たちが、投稿者を訴えた場合どうなるのだろう。

 

「訴えるとしたら、不法行為の損害賠償請求がされると思います。契約関係が何もなく、“撮られたくない”、“拡散されたくない”ものを勝手にやられたことが法的利益の侵害となるわけです。なので、民事の損害賠償義務を負う可能性はあります。とはいえ、予想の範疇を出ませんが、加害者側に被害者としての法益侵害が深刻かつ強度となる場合は想定しにくく、必然的に損害額が多額になる可能性は低く、場合によっては数万円程度の可能性もあると思います。

 

そして、加害者側からすれば、名誉毀損で訴えて勝ったとしても賠償額は少額で面倒だし、そもそも恥ずかしいので訴えない場合が多く、そうすると、被害者側の動画掲載が違法でも損害賠償しないで済んでいる、つまり事実上“野放し状態”になっていることが多い、というのが実情だと思います。また、ベビーカーを揺さぶったりする行為は暴行として犯罪に当たるので、そっちの刑事責任を問われたり、民事の損害賠償請求を逆にされるリスクも高く、結局は自分が払うことになりかねないですよね。それゆえによりいっそう加害者側からの権利行使は選択肢としてとられないことになるわけです」

 

顔にモザイクをかけている場合は、法的に問題はないのだろうか。

 

「誰かわからなくなるので上述の損害賠償を請求されるリスクはだいぶ減るでしょう。ただし、例えば、オードリーの春日さんのように、有名人であって、かつ、服装を見ただけで人物を特定できるような場合は別です。その場合は誰であるか特定できるので、顔だけモザイクかけたりしても意味ないわけです」

 

また、札幌の地下鉄駅構内でナタを振り回し、その後逮捕された男性の動画や、銀座の高級時計店の白昼の強盗事件の様子など、公共性や緊急性があるケースは別だという。

 

「“みんな逃げて”といった風に、緊急避難の行為をしているとも捉えられるので、それ自体は表現の自由云々ではなく、単純に違法性は阻却される可能性はあると思います」

 

ただし、違法行為を見たからといって、その動画を公開することにリスクがないわけではない。

 

「仮に“寿司ペロ”みたいなことを誰かがやって、関係ない第三者が撮影して面白半分にSNSなどで公開した場合、被害者との関係で違法性を問われる可能性はあります。例えば回転寿司のケースでは動画をツイッターに流す前に運営会社としては会社の法務部に送って欲しいというのが言い分だろうと思いますし、それ自体まっとうな話しです。それをせずにSNSにアップし、その結果企業業績や株価に影響があるとすれば、企業が投稿者を訴えた場合、業務妨害などに問われる可能性はあります」

 

訴えられたら当然リスクがあるということは意識しておくべきだそう。

 

「誤解している人もいますが、日本では“相手が悪い奴だから何やってもいい”という法律にはなっていません。今回のようなケースでも、“悪いことやってる奴を晒しただけです”という理屈は通りません。誰かが悪いことをしてるからといって、“あなたも悪いことはやっちゃダメでしょ”っていうのが日本の法律の解釈ですし、多くの裁判例に現れる裁判所の基本的な考え方だろうと思います」

 

正義のつもりが、いつの間にか自分が法を犯す立場になっていた、なんてことにならないように気をつけたい。

出典元:

WEB女性自身

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