■“カワウソ吸い”はなぜダメ? 背景にあるSNSの「映え」
果たして、生まれて間もないコツメカワウソを“吸う”といったスキンシップには、どのような悪影響があるだろうか? そこで本誌は、「日本アジアカワウソ保全協会」に話を聞いた。
コツメカワウソは体が小さく、愛くるしい見た目が人気の動物だ。しかし「国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種に指定され、野生動植物の取引を規制するワシントン条約においては原則商業取引が禁止されており、生息する国の多くが保護獣に指定しています」と、厳しい状況に置かれているという。
桂浜水族館の館長によるスキンシップについて見解を問うと、「動物園・水族館の役割は、種の保全とその普及啓発、調査研究、レクリエーションです。展示においても、野生の姿やその種を取り巻く現状をどう伝えるかが大事と考えられます」とコメント。そう前置きした上で、同協会は次のように警鐘を鳴らす。
「絶滅危惧種を『飼いたい』と思えるような場面を切り取って発信することは、ペット飼育を助長すると考えております。今回、桂浜水族館の『カワウソを吸う館長。』として仔獣に顔を近づける画像投稿に対し、本協会はペット飼育を助長するものとして抗議をしました。それに対するご意見の中で“愛情を持って懸命に世話をしているのだからいいのでは? ”というものがありましたが、問題はこの個体に対するスキンシップだけではありません」
“ペット飼育を助長する”という背景には、昨今のSNSでの「映え」が影響しているようだ。
「日本では過去にカワウソをペットとして世話をするテレビ放送をきっかけに、SNSでカワウソのペット映像や写真が人気となりました。ペット需要の高まりと共に密輸が増加し、他国のカワウソを絶滅の危機に晒した経緯があります。結果として、コツメカワウソはワシントン条約の附属書Iに掲載され、国際商業取引が禁止される事態となりました。
カワウソに限らず、珍しい動物をペットにしている写真や動画は『いいね』や『高評価』、『視聴者数』を稼ぎやすく、それが収入につながるので、多くの投稿が見受けられます。そのような動物たちの映える投稿が拡散されると、簡単にペット需要を後押ししてしまうことになるのです。
つまり、SNSでこの個体の写真が拡散されることにより、他の野生個体にまで被害が及ぶ危険性があるのです。教育の役目も担う水族館であれば、カワウソと人が過度に触れ合っているように感じられる投稿は、共感が集まりやすいからこそ控えなければなりません」
■桂浜水族館の謝罪は評価「野生動物の未来について考えるきっかけとなれば」
人間による過度なスキンシップがカワウソに影響を及ぼす可能性については、次のような解説があった。
「繁殖しているカワウソの取り扱いは慎重さが求められます。母親が育てられるのであれば、できるだけ人間が子どもの成長に関わらないように飼育するのが望ましいと考えられます。また、人間と動物との共通感染症のおそれもあるため、適切な距離を保つことが望ましいと考えられます」
ただ、桂浜水族館が謝罪したことは、「今回の投稿に対し、コメントを出してくださった事はありがたく思います。また、皆さまにおかれましても、今回のやりとりが、カワウソ及び野生動物の未来について考えるきっかけとなれば幸いです」と評価。
桂浜水族館も、先の謝罪文で《今日、カワウソが置かれている状況やさまざまな問題を取り扱い、警鐘を鳴らす取り組みを行っております》と記していた。希少動物であるカワウソたちが健やかに育つことを、ただ願うばかりだ。