■「夢は巖と一緒に世界旅行に行くこと」
記者が自宅を訪ねた日、ひで子さんは鮮やかなピンクのシャツをまとっていた。聞くと、巖さんからの誕生日プレゼントだという。
「私の誕生日に巖が黙ってくれたの。物は言えんからね。それでも私は、すごくうれしかった。巖が出てくるまでは、誕生日も盆も正月もない。そういう生活でした。世間とは離れてひとりで生活していたから」
出所してしばらくは、ひで子さんのことを「この人は姉じゃない」などと言っていた巖さんだが、最近はひで子さんの姿が見えないと心配して探すようになったという。
2人が心から笑顔になれる日は、いつ訪れるのか。再審の結審は来年3月、判決は6月ごろの見込みだ。ひで子さんは、闘い続けた57年間を、改めてこう振り返る。
「とにかく裁判に時間がかかりすぎた。検察から重要な証拠も開示されないし、再審が決定しても、なかなか開始されない。今の制度にはおかしな点がいくつもあります。巖のほかにも、えん罪犠牲者はたくさんいる。だから巖の事件をきっかけに、再審法や死刑制度を見直してほしい。そうすれば、48年間の巖の獄中生活もムダにならんでしょう」
晴れて無罪になったら、ひで子さんにはかなえたい夢がある。
「できることなら世界旅行をしたい。巖と一緒にね」
巖さんは釈放されてからも、“死刑囚”であるために国外には出られなかったからだ。ひで子さん90歳、巖さん87歳。“無罪”を勝ち取るための半世紀に及ぶ闘いのゴールは、もう目の前に見えている。
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