■JAL機パイロットはなぜ海保機を「視認できなかった」のか?
「今回の事故では、海保機が滑走路に進入した時点で、JAL機が滑走路からどれくらい離れていたのかが、焦点になると思います。
報道では、衝突までの約40秒間、滑走路上で海保機が停止していたとありますが、航空機が着陸前に滑走路上の物体に気づくとすれば、かなり低高度になってからが現実的です」
こう話すのは、現役パイロットだ。
前述の通り、衝突40秒前の時点でJAL機の位置は高度約84メートルで、衝突地点まで2.3キロの距離だったとされているが、現役パイロットの言う「低高度」とはどれくらいの位置のことなのだろうか?
「たとえば、高度でいえば約60メートルで、滑走路から約1.2キロの距離です。この着陸まで約20秒の位置でしたら、物体に気づくかもしれません」
JAL機は着陸後、数秒間、地上走行しているうちに衝突したことがビデオ映像で確認できるため、現役パイロットが示す「着陸まで約20秒」に数秒を足すと、衝突までの猶予は20数秒ということになる。
しかし前述した毎日新聞の14日の報道では《パイロットは「通常通りに着陸した直後に一瞬何かが見え、強い衝撃があった」と説明》とある。
現役パイロットが話を続ける。
「パイロットは、訓練でもそうですが、スルスルと滑走路に入ってくる航空機や動いている物体には気づきやすい。しかし、動かないものにはかなり気づきにくいのは事実です」
つまり、現役パイロットの言う「衝突20数秒前」の「JAL機が海保機に気づくチャンス」時点では、海保機は「40秒間停止」していた最中であり、「動かないものにはかなり気づきにくい」というのが現場経験による実感のようなのだ。
パイロットに昇格するには数年単位の訓練期間と厳しい試験の突破が必須だが、昇格後も半年に一度の集中訓練や審査がある。
「滑走路上にほかの航空機などがないかどうかの確認は、初歩の訓練時から強調されているものです。半年に一度の訓練や審査では、毎回、『ゴーアラウンド』(=着陸を中断し再び上昇すること)の訓練も行っています」
そのような厳しい訓練によって、パイロットはゴーアラウンドの技術を身につけている。
加えて、航空機には両翼や尾翼にビーコンライト、ストロボライトなどというライトを日没以降、日の出までは点灯させることが法律で義務づけられている。
これが滑走路上で光っていれば、今回の事故時のように夜間でも、気づくことは可能なのではないか?
「ところが、夜間は機体のライト以外に、種々の滑走路のライトが点灯しています。そのライトの中に当該機のライトが溶け込んでしまうような状況では、なかなか見えづらいと思います」
さらには、「3人のパイロットがいるのだから、誰かが気づくはずでは?」という疑問に対しては……。
「パイロットには役割分担があり、PF(パイロットフライング)はおもに操作を担当し、PM(パイロットモニタリング)は管制との通信やコンピュータ入力など、おもにモニタリングを担当します。
この役割分担によっても、外部監視を行う頻度が変わってくるんです」
今回、いくつかの報道では、当該のJAL516便の機体である「エアバスA350」がコクピットで採用している「ヘッドアップディスプレイ」(=HUD)という装備が、海保機を視認しにくくさせていたのではないかという指摘もある。
「HUDは、半透過ガラスのようなものに飛行計器上の情報を映し出し、視線を外に向けたまま操縦できる装置です。
便利な装置のようですが、情報越しに外を見るため、外が見えにくいという状況ができるかもしれません。私は使用したことがないのですが……」