■マイナス金利解除も円安傾向は変わらない
これまでの値上げの要因のひとつである円安も続いていく可能性が高いと、酒井さんは指摘する。
「日銀がマイナス金利政策の解除を決めても、円安が続いています。日米の金利差が解消するのはまだ先だと市場はみており、円安傾向は続きそうです。円安は食料品などの幅広い品目に波及します」
さらに一部品目では、原材料価格そのものが上がることも。
「原材料価格の上昇率は緩やかになっていますが、たとえば西アフリカの天候不順で、カカオ豆が不足してチョコレートの値段が急騰したり、トマトやオレンジの価格が上がることでケチャップやジュースが値上げされるなど局所的な高騰もあるでしょう」(酒井さん)
負担軽減措置によって抑えられていた光熱費も値上げが迫る。
「政府は、物価高騰対策として家庭や企業に行ってきた電気料金とガス料金の負担軽減措置を5月使用分で約半分に縮小し、それ以降はいったん終了する方向で調整しています。
補助金がなくなると、光熱費が家計を圧迫するだけでなく、企業は電気料金が上がった分を価格転嫁するので、とりわけ冷凍食品や加工食品、菓子などの加工度合いが高い商品の値上げを招く可能性があります」(丸山さん)
そもそも電気料金は、今年5月から再生可能エネルギー促進賦課金が上乗せされる。すでに年間1万円ほどの負担増になることが決まっているのだ。
さらに“値上げのラスボス”である家賃の値上げの可能性も。
「家賃は長らく大きな変動はありませんでした。そんな家賃が前年同月よりも0.2%上昇しています。これは24年ぶりのことなんです」(酒井さん)
実は家賃は明確な要因で上がるというよりも、モノの価格が上がっているという“空気感”によって、引き上げられるのだという。
「家賃の値上げは、すべての物価が上がるのが当たり前の世界に入ったことを意味するシグナルでもあるのです」(酒井さん)
今後の値上げは、家計にどのような影響を与えるのだろうか?
「賃上げの影響、物流コストの増加、円安の長期化などを考えると2024年度の1世帯当たりの支出負担増はプラス10万円以上になると見込んでいます。物価高が人々の暮らしの重しになっていくことでしょう」(酒井さん)
最後に丸山さんがこう語る。
「価格が比較的安定しているお米を中心に旬の野菜、まだ価格が抑えられている納豆、豆腐、厚揚げなど、栄養バランスを最優先に考えて、お財布と相談しながら自衛策を講じていくことです」
年金生活者や零細企業の社員とその家族……。賃上げの恩恵の届かない家庭にとっては厳しい新年度となりそうだ。