「内閣府の経済社会総合研究所が発表した2023年度のGDPデフレーター(国内総生産、すなわちGDPの物価動向を表す指標)は、前年度比4.1%上昇し、伸び率で過去最高となりました。
この数字は輸入コストなど海外由来の増減を含まず、国内に起因する物価の指標と考えることができるので、昨年度は国内で4.1%も物価が上昇したともいえます」
こう話すのは、物価の動向に詳しい経済評論家の加谷珪一さんだ。
「一方で、厚生労働省が発表した2023年度の実質賃金の月平均は前年度比で2.25の減少でした。
国内に起因する物価上昇は過去最高レベル、かつ昨年の春闘の賃上げ率(3.58%)も30年ぶりの高水準だったのに、国民の実質賃金は減っている状況なんです」
5月23日付の朝日新聞も《賃上げ要因は0.35%分にとどまった》と報じた。
「上昇分4.1%のうち、従業員の賃上げに該当する分は、かなり少ないと考えられます。商品の値上げによって得たお金は従業員に還元されておらず、4.1%中の大半は、企業収益になっているものと思われます」(加谷さん、以下同)
その企業収益はどこに?
「昨今の世界規模の物価上昇で、企業がコスト以上に値上げすることを、欧米ではグリードフレーション(=強欲インフレ)と呼んで批判されています。
日本の企業もこの強欲インフレ=便乗値上げを行っていることがうかがえます。便乗値上げで企業の利益を上げて、内部留保するというシステムなんです」
私たちの実質賃金は前年度比で2.2%も下がっているのに、企業側は4%近い利益を上げ、お金をため込んでいるなんて……。
「これは一概には言えませんが、家族経営の企業やオーナー企業であれば、お金の価値が低くなるインフレ下では不利になるので内部留保せず、投資に回す方策を積極的に取ると思います。しかし社員から社長に就任した経営者の多くは、内部留保を増やして、無事任期を終えようとするのでしょう」
今年の春闘では賃上げ率5.58%(経団連5月20日発表)と33年ぶりの高水準に沸いたはずだが……。
「この数字にも企業側のからくりがあるんです。確かに、若い世代の社員はここ1?2年、賃金が上がってきていると思います。
しかし問題は、おもに50代以上の世代の役職定年制度です。役職から外れれば、役職手当分がごっそり減って、年収ベースでマイナスになってしまうんです」
まださほど昇給していない若い人の賃金こそ上昇しているが、比較的高給なはずの50代以上の賃金が減っているということだ。
結果、国内物価が4.1も上がり、賃上げ率も上昇傾向というのに、実質賃金は下降しているのだ。
「今年の春闘では、経団連と連合は賃上げ成果をアピールし、岸田首相も国会で『持続的な賃上げ、所得向上を実現する』と強調しています。しかし数字の“嘘”にすぎないと言わざるをえません」
政治家や経営者だけが得をして、国民が一向に笑えない日々が続く。
次の総選挙で、その流れを変えることができるだろうか――。