「覚醒剤で6回服役」の反社会的勢力の元幹部にも寄り添う 北新地放火殺人事件遺族・伸子さん
画像を見る 23年6月、結婚記念日にご主人と。取材で親しくなった記者が、ご主人のクリニックで治療も受けることも(写真:伸子さん提供)

 

■覚醒剤で6回服役した反社会的勢力の元幹部も

 

被害者遺族という執着を捨てると気持ちが軽くなった。心が自由になり、考え方がシンプルになった。そこから加害者支援の方向にも目が向いていったようだ。

 

「兄の事件の加害者が、再犯だったことを知って、加害者の話も聞いてみたいと思ったのが最初です」

 

ワンネスで最初に話を聞いたのは、覚醒剤で6回服役した反社会的勢力の元幹部だった。

 

「その方の生い立ちを聞いてみると、むちゃくちゃなことをずっとやってきて、家族には迷惑をかけっぱなし。薬物で体を壊して、いつまで生きられるかわからない。でも最後は少しでも社会に貢献して死にたい、まっとうに生きたいっておっしゃって」

 

子ども食堂をやりたい、農業もしたい、“グリ下(グリコ下)”に集まる少年少女に声をかける活動をしたいと、元幹部は夢を語った。

 

「私、感動して泣いてしまったんです。人はこんなにも変われるんだと思ったら、涙が止まらなくて」

 

更生といっても、もちろん一筋縄ではいかない。それでもその彼とともに前を向いて歩んでいきたいと、伸子さんは考えている。

 

「人って、つらいときでも希望がないと生きにくいと思うんです。ですから『更生プログラムを一からやり直して、また自由に外出できるようになったら、青少年への声がけ、私も一緒にさせてもらいますよ』と、伝えてきました」

 

今年3月、伸子さんは気軽に立ち寄れるサロン「よすがのところ」を新たに開設した。

 

「『よすが』とは、心のよりどころという意味。モノリナを聴いてもらって、お話を聞かせていただいて、心の整理をしてもらおうと思って始めました」

 

モノリナとは音響療法などに使われるドイツの楽器で、雅楽器にも似た低く響く不思議な音がする。

 

悩みを抱えた人たちが伸子さんとの対話を求めてやってくる。

 

取材にきた新聞やテレビ局の記者たちが、最後に自分の悩みを相談していくことも多いそうだ。

 

本誌記者も、気がつけば「仕事が立て込むと、視野が狭くなってしまう」と、愚痴をこぼしていた。

 

「余裕がなくなるとダメですよね。一日のうち5分でも、たとえばお風呂で湯船につかっている間だけでも何も考えない。無になるっていう時間を作るといいですよ」

 

なるほど。聞いてもらっただけでも、心が軽くなるから不思議だ。

 

相談で多いのが、やはり人間関係。職場や周りに嫌な人がいるという問題はどこにでもある。

 

伸子さんの答えはこうだ。

 

「あなたの人生の主人公は、あなた自身。嫌な人は、ただの脇役にすぎません。あなた自身の物語でも、何もないと面白くないから、脇役さんが出てきて、刺激を与えてくれているんです。『わざわざ嫌われ役をやってくれてありがとう』くらいに思ってみてください。感謝することが大事です」

 

感謝して、面白がる。それこそが楽に、前向きに生きる極意だそうだ。

 

「感謝って、忙しかったらできません。心にゆとりがないと、感謝どころじゃないでしょう。目の前のことばかり見て、自分をまったく見ていない人が多いんですね。周りばかり見ているから、何かあったときには全部周りのせいにしてしまう。

 

でもそれって実は、ふだんの自分の行動や言葉が映し出されているんです。自分が自分の人生を創っていく。そのことを覚えておいていただけたらと思います」

 

70歳、80歳になっても、困り事がある人が気軽に立ち寄れる居場所を作りたい。

 

それが伸子さんの夢だ。

 

「昔のお寺のようなイメージですね。よぼよぼの私が座っていて、その前に話をしに来た人たちが列を作って待っている。話をした後は、みんなが笑顔になって帰っていく。そんなことを、いつか奏蓮の名前でやれたら面白いなって思っています」

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