■“命がけ”では日本の公益通報が減ってしまう
しかし問題は、違法であっても「お咎めなし」となってしまうこと。光前弁護士は、その理由を、こう続ける。
「3年前の公益通報者保護法の改正で、通報を受けた担当者が通報者の氏名などを漏えいした場合のみ罰則規定が設けられました。しかし、この法律は理念を謳っているだけなので、そのほかの罰則規定はありません。
以前から『罰則を設けるべきだ』という声もありますが、そうなっていないので、現状では通報者や家族が損害賠償の訴えをおこすしかないのです」
とはいえ、森友学園の国有地を巡る財務省の公文書改ざん問題で、自死した赤木俊夫さんの妻の事例を見てもわかるように、国や県などの行政機関を相手に裁判を起こす家族の心労は並大抵ではない。
光前弁護士は、「乱用につながるおそれがあるので罰則を設けることが望ましいわけではない」としたうえで、改善の必要性を次のように指摘する。
「今回のように、組織の上層部が絡む公益通報の場合、内部の組織に通報してももみ消されてしまうおそれがあります。そのため、消費者庁は違法行為があったかどうかについて判断する第三者機関を設けなさい、と以前から警鐘を鳴らしていました。
民間企業、とくに大手ではずいぶん設置が進みましたが、行政機関は非常に遅れている。まず、ここの改善を急ぐべきでしょう」
同時に「国民の意識を変えていくことも大切だ」と光前弁護士。
「日本では、公益通報者がバッシングされる傾向にありますが、欧米ではヒーローです。
とくにアメリカでは、通報者によって国や自治体が利益を受けたような場合には、かなりの報奨金が支給されます。日本のように通報は命がけ、ということになれば、ますます公益通報が減ってしまうでしょう」
今後、“命がけ”で公益通報しなくてもすむように、すみやかに真実を究明し、改善する必要があるだろう。