自民党総裁選に過去最多9人が乱立し、同時期に代表選をぶつけた立憲民主党が「メディアジャック」(野田佳彦元首相)されている。乗っ取られたのは、世間の注目だけでない。政策まで「パク」(枝野幸男前代表)られる始末だ。
使途公開の義務がない政策活動費の「廃止」を主張するのは、茂木敏充幹事長、小林鷹之前経済安全保障相、小泉進次郎元環境相の3氏。今年6月の通常国会で立憲を中心に野党が求めたが、自民は「10年後の領収書公開」で押し切り、改正政治資金規正法を成立させたばかりだ。
妥結した「10年後公開」についても、小林氏は「10年後はあり得ない」と「毎年公開」を表明している。林芳正官房長官も公開時期の「前倒し」に言及。立憲から「どの口が言ってるんだ」(泉健太代表)と突っ込まれた。
茂木氏に至っては「増税ゼロ」を唱え、1兆円を超える防衛増税の「停止」も公約。政府は防衛力強化の財源を法人、所得、たばこ3税の増税で確保する方針を打ち出し、野党のみならず、閣内からも公然と批判が持ち上がりながら、2023年度の与党税制改正大綱にねじ込んだ経緯がある。政権中枢による「ちゃぶ台返し」にほかならないが、茂木氏は「矛盾はない」と言い張る。
小泉氏が「決着をつけるとき」と息巻く選択的夫婦別姓の導入も、立憲が2021年の衆院選で公約に掲げた看板政策だ。野党は協調してたびたび議員立法を国会に提出しているが、自民は党内保守派に配慮して放置してきた。
ちなみに自民の政策ジャックは、3年前の前回総裁選でも指摘されている。「新しい資本主義」を唱えた岸田文雄首相のうたい文句は「分配なくして次の成長なし」。酷似する「分配なくして成長なし」はもともと、枝野氏の専売特許だった。
当時、米紙ニューヨーク・タイムズは、岸田首相のやり口を「野党が最初に打ち出した政策を採用するのがうまい自民党おなじみのテンプレート」(2021年9月29日)と皮肉った。
岸田氏は首相就任後、目玉政策だった富裕層に対する金融所得課税の強化を棚上げし、前回衆院選に突入。「分配」も選挙後に封印し、「成長のための投資」にすり替えている。政策ジャックして国民の審判をやり過ごし、看板を掛け替えたわけだ。
首相就任後「できる限り早期」の衆院解散を公言する小泉氏は今月14日の討論会(日本記者クラブ主催)で反論され、こうすごんだ。「首班指名を受けたときに、それまでの主張をがらっと変えて選挙を打つなんて人がいますか?」
いるのである。
(文:笹川 賢一)